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キス魔
「かなた~」
夜、自分の部屋で勉強していると遥がノックも無しに入って来る。
奴が夜遊びする日以外は毎度の事だ。俺はウンザリする。教科書を片手に「なあコレ教えてくんね?明日あたんだよ」と、ベッタリ張り付いてくるので尚更だ。
入学して1ヶ月しか経ってないのに何なんだこの自由人は。弟にはガリ勉要求してるくせに。少しは勉強しろ二重人格。
けっこう俺はストレス家庭で生きている。人生が辛いです神様。俺はイメチェンを強いられてからかなり性格が変わった気がする。『ニコニコ穏やかで優しい叶多くん』は永遠に留守です。
だから、兄に対しても厳しくしようと今誓う。いや元凶のコイツにそうしなくてどうする。しかしあの極寒地獄は恐ろしいので、やんわりと断る事にする。ヘタレでも命、大事。
でも。
「なあ、ダメか?」
そうなんだ。
この、遥の顔が厄介だ。こいつは整った、カッコいいよりは綺麗な顔立ちをしている。二卵性だから俺とは似てない。ここまで格差の酷い哀れな双子も珍しい気がする。ああ世の中不公平ですねハイハイちくしょう。
おまけにハグ状態のまま間近で頼まれるのだ。しかも捨てられた犬のように潤んだ目だ。俺の意志が弱いのかもしんないけど、想像して頂きたい。…断れるか?
「分かった…だから離れろよ」
息を吐いて承諾すると、ぱあっと遥はまさに太陽みたいな眩しい笑顔を見せる。おいやめろ目が潰れる。
そして「サンキュ叶多」と、ちゅっと遥は俺にキスをした。口に。
遥の悪癖だ。何かってーとキスしてくる。何度言っても止めてくれない。油断してると外でもしようとするからマジ困る。
深くないだけマシか、と思って気分が悪くなった。こいつと舌絡め合うとか冗談じゃない。
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