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キス魔

「しねえの?叶多」 でも、遥のこの言葉と声にビクリとした。反射的に震えて俯く。 本当に部屋の温度が下がった気がした。絶対零度に。 まずい。極寒きた。見ずともあの冷たい目がこっちに向いているのが分かる。 イメチェンプロデュースの際に初めてなってから、今でもたまに遥はこうなる。主に俺がヘマした時。 俺は腹を括った。悔しいけど、仕方ない。本能的に解る。蛇に睨まれた蛙だ。従わないと―――食われる。 「わ、かった…」 落ち着かない体を叱咤して、俺は屈んで遥の指に口を寄せる。そして舌を出し、ペロッと舐めた。鉄の味に怯みそうになる。 それを察したのか、遥がもう一方の手で俺の後頭部を押さえてきた。逃げられないように。 そのせいで思いっきり指が口内に入って俺は驚き「んんっ」と、こもった声を上げた。何故かそのとき遥の呼吸が上がった気がして、不思議に思い目だけを上向けて見た。 「…綺麗に舐めろよ?」 でも、やっぱり気のせいだったらしい。遥は何ら変わらず涼しい表情だった。目も通常で、それにホッとすると俺は再び視線を指に落とす。言われた通り念入りに舐めた。 ピチャ、ピチャと部屋に水音が響き渡る。もういいんじゃないかと思うけど、遥が頭を離してくれないので続けるしかない。 でも気持ち悪くないんだろうか。もう兄貴の指先は俺の唾液でまみれて、おまけに垂れ始めている。何だか恥ずかしくなってくる。

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