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常に兄貴の顔色を窺ってる弟の言動とは思えない。 いつ遥が極寒モードになっても不思議じゃない。 でも。 「叶多…泣くなよ」 遥の声と雰囲気は、どこまでも優しかった。俺の後頭部に額をコツンと当ててくる。 そのとき水気を感じて、つい俺は軽く顔を上げチラッと振り返った。そして、大きく目を見開く。一瞬何もかもを忘れた。 ――遥が…泣いてる… 偽りじゃなく、今まで俺は遥の涙を見た事がない。おそらく父さんも母さんもサクも、誰もだ。遥は、我慢強い。 なのに、俺が泣かせたんだ。そう思うと、俺の目からも更に涙が溢れる。 「泣くなよ」と兄貴の言葉を俺がおうむ返しすると、ふにゃっと遥は力なく笑んだ。透明の涙がポロッと一粒落ちる。 「だって、叶多が泣いてるから」 俺はどうしたらいいのか分からなくなった。 完璧な双子の兄貴がいじらしく思えて、庇護欲が芽生えた。いつもみたいに、元気に笑って欲しかった。

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