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でも、だからって。 「か、なた…?」 自分からキスをするなんて、どうかしてる。俺が禁止を求めたくせに。 たどたどしい不器用な口付けを受けた遥は呆然とした。その表情は無防備で、いやに幼かった。 「おっ『おまじない』…遥の元気が、出るように」 俺は熱い体を持て余したまま、ぶっきらぼうに言った。 少しかさついた感触がまだ唇に残ってる。それが益々羞恥となる。やばい、ゆでダコ状態かも。 驚いたことに、かあっと遥も目元を赤くした。 思わず釘付けになっていると、その赤い顔が寄って来る。チュ、とささやかなリップ音がした。 「俺も…『おまじない』。叶多の元気、出た?」 「…うん」 遥の泣き笑いの顔に、俺も泣き笑いを返す。二人でくすくすと笑い合った。鉛の重い心が解れていく。 俺は当然まだサクが好きで、想うと切なくて胸は痛むけど。 なんだか少し、大丈夫な気がした。

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