38 / 74
涙
でも、だからって。
「か、なた…?」
自分からキスをするなんて、どうかしてる。俺が禁止を求めたくせに。
たどたどしい不器用な口付けを受けた遥は呆然とした。その表情は無防備で、いやに幼かった。
「おっ『おまじない』…遥の元気が、出るように」
俺は熱い体を持て余したまま、ぶっきらぼうに言った。
少しかさついた感触がまだ唇に残ってる。それが益々羞恥となる。やばい、ゆでダコ状態かも。
驚いたことに、かあっと遥も目元を赤くした。
思わず釘付けになっていると、その赤い顔が寄って来る。チュ、とささやかなリップ音がした。
「俺も…『おまじない』。叶多の元気、出た?」
「…うん」
遥の泣き笑いの顔に、俺も泣き笑いを返す。二人でくすくすと笑い合った。鉛の重い心が解れていく。
俺は当然まだサクが好きで、想うと切なくて胸は痛むけど。
なんだか少し、大丈夫な気がした。
ともだちにシェアしよう!