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戸惑い

「叶多…可愛い」 長い、と文句を言おうとした俺は遥の言葉に固まった。 違う、言葉じゃない。「可愛い」なんて普通兄が弟に対して言わないはずなのに、そこはスルーしてしまったから。 表情だ。遥は凄く真剣で、なんつーか…『男』って顔をしていた。 『兄貴』を見失い俺は極寒とは別の意味で怖くなる。いや、怖いというより…戸惑う。遥の見てはいけない顔を見た気がしてモジモジしてしまう。自分が最高に気持ち悪い。 その俺の当惑を悟ったらしい遥は柔軟に笑った。なんか恥ずかしかったけど、いつもの兄貴の顔に戻ってホッとする。 「…彼女、これ怒るんじゃねえの?」 照れ隠しに、俺は疑問を遥に投げ掛ける。 咄嗟だったけど、これは本当に気になってた事だった。だって普通、恋人が弟とキスしてたらキレるんじゃないか?つかキモいんじゃないの? 俺は彼女さんに申し訳なくて、遥が捨てられるんじゃないかとヒヤヒヤしてる。また兄貴の心が抉られて、悪化したらどうしよう。 「うん、大丈夫だよ。イイコだから」 でも遥は俺の不安をヨソに滑らかに、自信満々に答えた。 そんなもん…なのか?カップルの心理なんて俺には想像しか出来ないけど…まあ、彼氏がそう言うんならそうなんだろう。相手は家族だしって事でノーカンにしてくれてるのかもしれない。挨拶みたいなもんだしな。 おおらかな彼女さんで良かった。遥が家に連れてきた際は土下座で歓迎しよう。

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