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『兄』

俺はありったけの、渾身の力で遥を突き飛ばした。火事場の馬鹿力を身を持って体験した。「うぉっと」と、遥が虚を衝かれて僅かによろめく。 俺は眼鏡を外し床に叩き付けた。兄貴に追従してる象徴を身に着けていたくなかった。破壊したかった。でもそれは曲がりも割れもせず、無事に転がって止まった。 「ふざけんなよ遥!!俺が原因なら俺だけ攻撃しろよ!サクは関係ないだろ!!俺がっ…」 ――勝手に、好きになっただけなのに ごめん、サク。ごめんな。 俺たち兄弟のゴタゴタに巻き込んで、ごめん。頼って、ごめん。お前をこれ以上貶めさせない。 本当に、ごめんなさい…!! 「遥…やめろよ…サクにはもう、近付かないからっ…メールも電話も、しないから…!」 嗚咽の合間に言いながら、心が軋む。ミシミシと痛む。 この期に及んで、まだサクが好きとか笑える。元凶のくせに。

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