51 / 74

『兄』

「なあ遥お前、俺をどうしたいんだよ…。俺、お前が安定したって…いい彼女さんが出来たって、喜んでたのに…」 全て俺の勘違いで、嘘だった。 見誤っていた。遥の心は全然、改善されてない。俺への歪んだ固執は変わってない。成長して騙すのが上手くなっただけなんだ。俺を。サクを。 立ち尽くして泣く俺に、「大丈夫だよ叶多」と遥は聖母みたいに美しく微笑した。 「彼女は居るよ。お前だもん」 俺は目眩がした。ぐらりとブレる世界の中で、遥の目が三日月に光る。冗談を言っている雰囲気では無くて、だからこそ戦慄した。 ――こ、れ…『妄想』って、やつ…? 俺は、甘く見ていたのかもしれない。遥の心の傷の深さを。 「遥っ…!びょ、病院、行こう?俺も付いてくし…っ」 ひっくり返る俺の声に「は?何言ってんの?感じワリ」と遥はふくれる。 そして俺の右腕を掴むと、そのままベッドへと放り投げた。凄い力と回転する視界にパニックに陥りかける。

ともだちにシェアしよう!