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『兄』

「んぅっ!?」 いつもと違う感触に俺はビクッと瞳孔を開く。 薄く開いた唇の隙間から、何か生温く湿ったものが侵入してきた。それは意思を持って俺の舌を見付けると乱暴に絡まってくる。空気を含んだ音を立てて吸い上げられて、やっと遥の舌だと分かった。 ――ディープキス 理解した刹那、俺の腕が動いた。思いきり振った肘が目の前の側頭部を直撃する。「ってぇ…」と遥が顔を上げ自由になった瞬間に、隙間から滑り降りた。 「うあッ!」 でも直ぐに腕が伸びてきて、背後から腹に手を回される。そして後ろに引っ張られ再びベッドの上に叩き付けられた。そんなに痛みはないけど背中の衝撃で一瞬息が詰まる。スプリングがギシッと鳴り、その音が不快すぎた。 「やっ、嫌だ!!はなっ…んん゙!」 また遥が深く口付けてくる。今度は舌に加えて歯を一本ずつなぞられ、頬の裏や上顎をも擽られた。ゾクゾクとした寒気が腰から背筋を駆け上がってくる。それが『快感』とは、俺は認めたくなかった。 「ん……ぁ…やめっ…!んッ」 息が苦しくなった頃に一端解放されるけど、また角度を変えて遥は何度も続ける。 拒否に振ろうとした頭は右手で、両手首はその上で一纏めにされ左手で押さえられる。脚は脚を使われ俺は遥にガッチリと固定された。体格差の悔しさとか恐怖とか悲しさとか苦しさで、俺の目に新しい涙が滲む。

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