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『兄』

「…………は………?」 俺は何も考えられなくなって、そうとしか言えなかった。『嘘だろ?』『何バカ言ってんだよ』とか、反論して良かった筈なのに。 ――え……双子の自分もって……俺、の、こと? 俺が、二重、人格…? 遥は俺の反応に満足して、でも「俺ばっかじゃねーんだよ」と苛ついていた。 「しかもなあ、お前の方が重症だぜ?俺はまだあるけど、お前は交代してる時の記憶が無い完璧な『入れ替わり』だからな。俺の恋人はお前だけど、お前じゃねえんだよ」 ヘドを吐くように言いながら、遥は俺のシャツを引き裂いた。そこからボタンが千切れ飛んで行くのが視界の端に映る。人形のように動けず、ただそれを眺める。 「大体なあ、俺の極端な二面性はお前のせいなんだよ。ガキの頃からコロコロ豹変する弟を相手してりゃ病みもするっての。しかも俺の前だけだしな」 涙も消え、乾いた目で遥を見つめた。恐怖すら消えた。脳が麻痺して、放心した。目の前が、だんだん暗くなってくる。 『ごめん叶多、ビックリしたね。交代しよ?』 そんな優しげな声が脳内に響いて、俺の意識は途切れた。

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