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闇の中
「でも、マジでフシギだよなあ。叶多にはお前の時の記憶は全然ねえし感覚もねえのによ。『怖い』って感情だけは引き継がれるとか」
遥はカナの首筋に口を這わし味わいながら、世間話のように語る。
叶多と違いカナは感度が良く、いちいち反応する。同じ肌なのにこれも妙な点だ。気持ちの違いか、と思い遥はムッとする。
「そう、だね。オレの時っは…んっ、叶多は完全に寝てるしね…主人格だし、全てを遮断してるッ……ハルに自分の体ヤられてるのが、すごく嫌なんじゃない?…無意識にっ、はね除けてるの、かも」
「…やっぱ叶多がまだ主人格?」
バレたらしく、からかい気味に当て付けてくる恋人に遥はそれとなく話のベクトルを変える。とっくにカナは分かっていて許しているとは、彼も知っているが。
「そーだよ、交代比率見てたらッ、分かるでしょ?睡眠時でも、んっ、十回出ようとして七回は負ける。叶多の精神は、強いんだよ」
勝率三割か。顔を上げ遥は忌々しげに舌打ちする。もっと恋人と居たいと思うのは当たり前だった。カナは苦笑する。
「ハルの前でしかオレ出られないしね…でもそれだけ、叶多がハルに心を許してる証拠だよ?叶多はいつも痛々しいくらい気を張ってるから、たぶん俺は他のとこでは絶対出られない。負ける。ま、オレもそこに出ようとは思ってないけど」
「あー、あいつヘタレだからなあ」と、恋人の言葉に遥は妙に納得した。
ヘタレのくせに精神が強いというのも矛盾な話だが、ヘタレ故の強い防衛心イコール精神力、という事にもなるのかもしれない。
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