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闇の中
だったら叶多も遥のものにしてしまえばいい。そうすれば万が一の時に遥も寂しくない。
カナがこの殆ど極論の結論に至るまでに、そう時間は掛からなかった。
でも、これがジレンマだった。カナは叶多が好きだ。遥とは別の意味で愛している。それは尊敬と家族愛に近く、だからこそ遥をけしかけての性的暴行は憐れだと思った。まあ、自分がその被害に遭うとは皮肉だが。天罰かもしれない。
中3の夏頃から、遥が情緒不安定なのはカナも知っていた。そして叶多が原因なのも知っていた。
何だかんだで優しく芯の強い叶多の人格にも遥は興味を抱き、惹かれていた。弟の部屋に盗聴器を設置したのも知っていた。初恋そして失恋を利用して、叶多の気を引こうとしたのも知っていた。正義のヒーローみたいだった遥をここまで堕としたのは、明らかにカナと叶多だった。
しかしこれらは、上記のカナの野望を達する為に好都合な事態だった。
元々それまで遥は叶多が嫌いだったので、ほぼ奇跡の幸運だった。上手くいけば叶多も遥に正攻法でオチる――サクに惚れてしまったので難しくなったけど――かもしれない。そうなれば万事解決だった。
だが、それなのに。
本人も驚愕ものだったが、カナのこの時の感情は嫉妬そして憎悪だった。
どちらに対してもだ。二人とも愛する人なのに、おかしな話だと思った。
しかしそれでもカナの、叶多と遥への愛情は薄れなかった。愛憎は紙一重とはよく言ったものだ。
おそらく遅かれ早かれ自分の存在が消えてしまうだろうその時まで、二人を憎み愛そうと誓った。半ば強制的なその心は、カナの精神をも不健康に折り曲げていった。遥と共に。
「ね、ハル。『おまじない』して?」
「ん」
そうして何かが壊れてしまった恋人たちは、汗と涙と精液に濡れたベッドの上で、触れるだけのキスをした。
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