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第5話 弟

時間の流れをこんなに遅く感じたのは初めてだった やっと2時間が経つと、今の俺に出来る全速力で海音の病室へと向かった 軽くノックをすると 中から弟が出て来て、外に出て来ると静かにドアを閉めた 「…兄さん 寝ちゃいましたけど」 「そ…っか」 仕方ない 俺には分からないけど 検査って疲れると思うし、正直かなり残念ではあるが 起こしたくは無かった 戻ろうと思った時、ふと彼の腕に注射の痕を見つけた俺は、その顔をジッと見つめてしまった 「…何ですか⁇」 「えっと…陸也…君⁇」 「呼び捨てで良いです」 「ありがと じゃあ 俺の事も永遠って呼んで⁇ 敬語とかも使わなくて良いし」 「…うん…で、何⁇」 「あ…君も…何か検査⁇」 俺の言葉に 陸也はパッと腕を隠した その動作に 何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと 少しバツが悪くなってしまった 「…ただの定期検診」 「…そっか」 「…あの」 「うん⁇」 さっきも思ったけど 陸也は背が低い こうして立って向かい合うと、俺を見上げる姿勢になる為 顔立ちと相まって可愛らしい印象を与えてくれる 「…さっきは…ストーカーとか言ってゴメン 今日の検査 痛みがキツイやつで…兄さんずっと憂鬱そうだったんだけど、永遠が友達になってって言ってくれたの すごく嬉しかったみたいで… 『後で永遠と話すの楽しみ、検査頑張る』って笑ってたから… その…ありがとう…」 陸也の言葉に 一瞬ポカンとしてしまったが、直ぐにハッとなって 頬を赤らめている陸也の頭を無意識にグシャグシャと撫でた 「な!? 何だよ!!」 「いや…お前 可愛いな」 「はぁ!?」 止めろと腕を振り払われた時、バランスを崩した俺の腕を 陸也が掴んでくれた お陰で転ばずに済んだが、いかんせん顔が近くなってしまい お互い赤面してしまった 「…悪い ありがとな」 「別に…今の絶対俺の所為だし…」 今度は転ばない様ゆっくり離れるも、何だか気まずい沈黙が流れてしまった 「…えっと…あ!! 俺 一階上の603号室にいるんだ!! 海音にも伝えておいてくれよ」 「うん…分かった」 「じゃあ またな」 ああ…俺って こんなだったっけ⁇ 人との接し方に困った事なんて 今まで一回も無かったのに、どうにもこの兄弟の顔には弱いみたいだ 情け無く思いながらもエレベーターの前まで来ると、横から手が伸びて来て ボタンを押してくれた 「ありがと 陸也」 「…ん…危ないから 上まで一緒に行く」 恥ずかしいのか フイッと顔を逸らされてしまったが、ちゃんと俺が降りるまで エレベーターの開けるボタンを押していてくれた

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