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第32話 夢

「何書いてるんだ⁇」 海音がペンを持っている所を初めて見た俺は、来てそうそうにそんな疑問を口にしていた 「エンディングノートだよ」 「エンディングノート⁇」 「うん…死ぬまでにしたい事を書き出してるんだ」 明るく笑う海音に 俺の方は上手く笑顔を返せたか自信がない 「でもやっぱり、ここに行ってみたいとかになっちゃうんだよね」 「外出許可出ないのか⁇」 「うん…もう直ぐ発情期も来る予定だから…ちょっと難しいかな…」 そう言って少し寂しそうに笑う海音 力になってあげたい 素直にそう思った 「今 ここで出来る事で何かないの⁇」 「うーん…」 「俺にも出来る事あったら 何でもするよ」 「永遠が⁇」 「うん」 何か思いついた様な顔をした海音は、ジッと俺の事を見つめている 「永遠…今から僕が何しても怒らない⁇」 「うん⁇ 勿論良いよ  海音がしたい事なら、俺もしたいし」 俺の返事を聞いた海音は 少しだけ視線を逸らした後、また俺の顔を見てはにかむ様に笑った 初めて見るその表情に見惚れていると、グイッとネクタイが引っ張られて 勢いそのままに前に倒れ込んだ 次の瞬間にガチンという音と共に、口に猛烈な痛みが走った 「痛!!…ごめん、永遠」 「だ…大丈夫、大丈夫」 お互い口を押さえた状態で苦笑いしていた 海音は涙目になってバツが悪そうな顔をしていて、気にしないでという気持ちを込めてその頭を撫でた 「キスって痛いんだね…テレビで見るのと全然違う…」 少し拗ねた様な表情の海音が可愛くて、思わずフッと笑った 「そんな事ないよ」 そう言って俯きながら、口元を拭った海音の顎を親指と人差し指で挟んだ 「永遠⁇」 「海音…目瞑って⁇」 一瞬 戸惑いの表情を浮かべていたが、俺の言う通り目を閉じてくれたのを確認すると、ゆっくり唇を重ねた 「…ん」 鼻から抜ける様に出る声 顎にあった手を海音のサラサラな髪に移動させながらベッドに腰掛けると、二人分の重みでギシッと音が鳴った 「…ん…ふ…」 唇を離すと海音は恥ずかしそうに俯きながら、俺の胸に顔を寄せた 「…スゴイね…永遠のキス…気持ち良かった」 「本当⁇ 良かった」 手触りの良い後頭部を撫でていると、海音が何か言いたげな瞳で俺を見上げてきた 「…もう一回する⁇」 「…シタイ…けど」 「けど??」 「…ドキドキし過ぎて…僕の体にはちょっと負担が…」 「大丈夫か!?」 胸元を押さえながら苦笑いする海音 その背中をさすると「もう大丈夫だよ、ありがとう」といつもの笑顔で言ってくれた 「また…体調の良い時に…お願いするかも…」 「俺はいつでも良いよ」 「ありがとう」 「…なあ、海音」 今まではキスをする前に相手に言う事があった それを今 海音に向かって言おうと思うと、初めて口にした時より ずっとドキドキする 「うん⁇」 「…好きだよ」 「…ありがとう」 海音のこの返事に、付き合うのかとかそんな話をこれ以上出来なかった 海音が未来の話をしたがらないなら、これ以上そこに繋がる事を俺からは言えなかった そして俺と海音の間に『また』が来る事は無かった

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