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第38話 宿星
ついこの前まで暑いくらい晴れていたのに、今日は肌寒い程の雨
黒いネクタイを締めた後、上着にも袖を通した
海音の葬式に重い足取りで向かう
受付を済ませて中に入った時、物が割れる音と女性の怒声が響いた
「あんたの所為よ!!
あんたが手術しなかったから 海音は死んだのよ!!」
その言葉に急いで奥に行くと、陸也がお母さんから何度も拳を振り上げられていた
陸也は避けもせず、手で防いだりもせず、ただただされるがままに体を差し出している様に見えた
その異様な光景に無意識に体が走り出す
「あんたの所為で!!」
平手になった手と陸也の間に自分の体を滑り込ませると、パンッと乾いた音の後に 頬にジンジンと痛みが走った
「永遠!?」
「あなたは…」
お母さんの手が止まった所で、お父さんがその手を取った
「やめなさい!!」
「止めないでよ!! この二人の所為で 海音は死んだのよ!!」
「いい加減にしろ!!
陸也は出来る限りの事は ずっとしてくれていた!!
それに海音がずっと言ってただろ!?
病院では死にたくない 一度で良いから海が見たいって!!
星都君はその願いを叶えてくれたんだろう!?」
お父さんの言葉の後、お母さんは泣き崩れて そのまま別の部屋へ行ってしまった
「永遠、ごめんね見苦しくて…
兄さんに…会ってあげて⁇」
「…ああ」
棺桶の中で花に囲まれる海音は、まるで寝ている様だ
でもその手に触れても、もう感じる事の出来ない温かさに涙が零れた
大好きで 言葉では言い表せないくらい愛しかった
俺に初めての感情を教えてくれた海音
まだ 海音の死を全て受け止めきれないまま、海音は空へと帰って行ってしまった
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