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第1章6話 恋患い①
認めてしまえば
それは信じられないスピードで。
日毎に速度を上げて。
あの日から城野の心に彼は住み着いた。
だからといってたまに見かける姿に声をかける訳でもなく、並んで講義を受ける訳でもなく……。
ただその声に、面影に、匂いに、影にさえ、焦がれた。
*
「あれ?お前も調べもの?」
ふと机に影がさして城野が顔を上げると彼が立っていた。
「あー!それ刑法各論の課題のレポート」
腰を屈めて、机上に広げられた資料を覗き込む。
近くなる距離に城野の心音は早くなる。
「げっ、お前もうそんなのやってるの?すげぇー」
図書館の静寂とした空気を気遣うように彼は城野の耳元に小声で囁いた。
その時
「ああぁぁぁー!何やってるんだ?!!そこの二人!」
周囲から非難混じりの視線を浴びながら駆け寄って来たのは彼とよく一緒にいる青年だった。
それは例えば教室移動中の狭い渡り廊下だったり。
それは例えば学食でトレイを待って並ぶ列の中だったり。例えば校舎から裏門に続くなだらかな坂道の途中だったり。例えば、例えば……。
何度彼の隣にその青年を見たことだろう。
「おう、遅かったな」
「離れて離れて!」
青年は彼の腕を引っ張って城野の側から遠ざける。
城野が下からスッと視線をやると、青年はその鋭さに一瞬怯んだ様子を見せながらも、しっかりと視線を受け止める。自分を挟んで睨み合う二人の険悪な雰囲気に気付かない彼は友人を嗜める。
「何だよ。お前、感じ悪いぞ。城野がなんかしたのか?」
青年に対する遠慮のない物言いに、二人の親密さを見せられているようで、城野の尖った視線は途端に弱気なそれに変わってしまう。
「何言っての?さか……
「あぁぁぁーー、ちょっと待て。俊、お前に用事あったわ」
急に思い立ったようにそう言うと彼は友人の口元を掌で押さえ
「ごめん、城野。またな」
そのまま友人を引きずって行ってしまった。
ーー何度も何度も見送った
ーー見慣れたはずの二人の後ろ姿に……
ーー胸が焼けた。
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