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第1章8話 恋煩い③

夢を見ていた。 色のない夢を。 繰り返し繰り返し見てきた夢の結末を城野はもう知っている。 だから ーー早く、早く目を開けろ 遠くから聞こえてくる地鳴り。 初めは気のせいかと思うほど微かな揺れ。 確かに揺れていると確信したと同時に 押し寄せる暗闇の渦。 覆い被さるように迫る大波。 なぎ倒し破壊し尽くす暴風。 その全て。 それは一瞬のようで同時に永遠に続くようにも感じる絶望感。 恐怖と孤独に押し潰されながら、何もなくなった荒れ地に一人残された子供……。 ーーそれは……オレだ…… 「城野?城野っ」 「……ッ!!」 その声を頼りに追いかけてくる暗闇から逃れて目を開けた。 「大丈夫?うなされてたよ」 「……ああ。夢、見てた」 「昨夜、なんかあった?さっき来たらシャワー出しっ放しだし、服はそこらじゅう脱ぎ散らかしてるし」 「……」 「話したくないなら無理には聞かないけどさ」 そう言うと深月はキッチンへ向かいながら 「コーヒー飲む?」 と尋ねた。そして城野が答えるより先に振り向いて言った。 「名前呼んでた」 「……」 「ゆづ。ゆづ、って」 自分以外の誰かが呼ぶ想い人の名前。 それを聞くだけで胸が締め付けられて。 だけどその切ない痛みだけが、城野の生きている証しだから。 だから。 ーーこの先も、ずっと ーーずっと、この痛みと生きていく ゆづって誰?と聞く代わりに深月は全然別のこと聞く。 「そう言えば貴方、ユカと寝た?」 「ユカ……?」 「そうユカ。私の友達」 「……あ……っ」 「身に覚えあるみたいだね。なんかねぇ大変なのよ、彼女荒れちゃって。だけどあんまり貴方の悪口ばっかり言うから……ね……分かっちゃうって。って言うか分からせたかったんだろうけどさ。でもさー貴方が女と寝る度に気にしてたら身がもたないって話しよね」 ケラケラと笑う彼女はだけど急に真顔になって 「ダメだよ?城野。自分を粗末にしたら」 ーーあんな表情(かお)をして ーー名前を呼ぶくらいに ーー大事な人がいるのなら 「だって、それはいつか……その人を傷付けてしまう」 ーーそして貴方自身も傷付いていく そう、あのいつもの寂しげな表情(かお)で言った。

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