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第2章3話 再会、それからのあと

視線を感じた訳じゃなかった。 ただ頰の辺りがチリチリと焼けるようで坂下はあたりを見回す。するとやっぱりそこには彼がいて、二人の視線は確かに絡み合う。けれど 「城野」 と、名前を呼ぶ前に彼の視線はいつもそっと外される。 まるで初めから坂下など見てなかったように。 ーーなんで? 胸が騒つく。 「城野ー!」 片手を上げて大声で呼ぶと今度こそ笑顔が返された。 二限終わりの学食。 約束もしていないのにいつも待っている。 尖った声が出るのはそんな自分に戸惑っているから。 「なんでお前無視すんの?」 「無視?そんなことしてない」 「しただろ」 「してないよ」 下を向いてクスッと微かに笑ったように思えてカッとなる。 「したっ!だってさっき俺のこと見てたくせに……あっ、ご、ごめん……」 「なんで謝るの?」 自分でも何故だか分からなかった。 「……」 「謝らないで」 まるで懇願されているような錯覚をしてしまいそうな切な気な囁きに坂下は、苦しくなる。 「ああああーー、こんなとこでいちゃつくのやめてもらえます?」 「俊」 突然、割って入って来たその声の主の名前を坂下はどこかほっとしたような声で呼んだ。 ーーぎぃぃ そんな些細なことで城野の心は簡単に、本当に容易に、傷付いていく。 「なぁ、それより聞いてくれよぉぉぉ、、、俺、振られたぁぁぁ」 「またか?」 「うっ、また、とか言うなよ……今度は上手くいってると思ったのに」 「女心分かってない鈍感くんだからな、お前は」 「お前に言われたくないよぉぉぉーーてか自分だって全然長続きしないじゃん」 拗ねたように筒井が言った言葉にコップを持つ城野の手が空中で止まる。 「ゆづ、恋人いるの?」 「正確には、いた、だよな?」 筒井が坂下の顔を覗き込むようにして答える。 ーーぎぃぃぃ 「何だぁ?城野。ヤキモチかぁ?お前ほどじゃないけどこいつ結構モテるよ?」 そんな筒井の軽口を聞き流して坂下は言い訳みたいに言う。 「あはは、最初は好きだって言ってくれるんだけどな。筒井と同じだよ。結局いつも向こうからサヨナラ、バイバイ」 「なぁぁ城野ぉぉ誰かいい子いない?紹介して?」 そう言って肩にしなだれかかってこようとする筒井を片手で掃いのけて城野は探るような目で坂下を見る。 「ゆづは、どんな子が好き……なの?」 そして本当はそんなこと微塵も知りたくないと願う。 ゆづはどんな風に女を抱くのだろうか?ずっと見つめてきた綺麗な背中。あの背中に何人の女が触れたのだろうか? ーーゆづる 女を抱きながら何度その名前を想っただろう。 声に出してしまったら汚してしまいそうで だけど 熱を放つ時、城野の脳裏を埋め尽くすのはいつも 坂下ゆづる その名前の持ち主ただ一人だった。

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