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第2章7話 求め合う心と身体♡
ずっと触れてみたいと焦がれていたのは真っ直ぐな綺麗な背中。自分なんかが触れていい人じゃないと諦めていた。
「ゆづ……ゆづ……もっと触ってもいい?」
「ユキ、俺もお前に触りたい」
合わせたままの唇のわずかな隙間で会話する。
「脱がせても……
坂下はその問いをまたキスで塞ぐ。
そして名残惜しげに唾液の糸引く唇を離して自分のシャツのボタンを外していく。
その様子をじっと見つめる城野に
「お前、エロいよ。今自分がどんな表情 して俺のこと見てるか分かってる?」
と、笑ったのは本当は緊張と興奮で震える指先を誤魔化すためだった。
なのに「ごめん」なんて謝って、視線を外す男のつむじが切なくて、もう何処にも逃げようもなく、誤魔化しようもない不治の病にかかってしまった自分を知る。
そして多分そんな自分と同じ痛みを感じているであろう男の名前を呼んだ。
ーーユキ
「ユキ、お前も脱いで?それとも何?俺に脱がせて欲しいの?」
男らしい色気の漂う掠れたその声は城野をただの男にした。
*
「……あっ」
僅かに漏らした声にさえ泣き虫な男は敏感に反応する。
「ゆづ?痛かった?」
「……」
「ゆづ、ダメだった?……ごめん」
素肌を晒し合って尚、自分に対してどこまでも臆病な男に苛立って坂下は顔をしかめた。
するとやっぱり男は坂下の顔の両側についた手を退けて離れていこうとする。
「バカ、気持ち良かったよ!気持ち良くて声が出たんだよ」
遠退く男の首に両腕を回して自分の口元まで引き寄せる。そしてその耳に甘く命じる。
「だから
ーーもっと気持ち良くしろ
首筋から鎖骨……甘やかな口付けは薄っすら濡れた軌跡を残していく。膨らみのない平らな胸に頬擦りした男は小さな乳輪に埋もれた乳首に舌を当てる。
「んッ……」
「ゆづ……ここ……好き?」
そう言って、坂下が声を漏らした箇所を執拗に愛撫する。
勃ち上がっても女のそれとは比べようもなく小さな尖りをちろちろと舌先でなぶりながらゆっくり下ろした右手は太ももを撫で上げては撫で下ろす。
そして坂下がほんの少しでも嫌がる素ぶりを見せたなら直ぐに引く覚悟でその手を両脚の間に伸ばした。
「ゆづ……勃ってる」
「バカ、当たり前だろ。好きな奴とベットでこんな事して勃たない男がいるかよ」
「嬉しい」
「そう言う自分はどうなんだよ」
「オレ?オレはもうずっと
ーーこんなだよ
押し付けられた昂まりの熱さに口内にどっと唾液が溢れてくる。それを坂下はゴクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
「ゆづにもっと気持ち良くなって欲しい」
そして快感に溺れるように
ーーオレに溺れて欲しい
だから
「今日は気持ち良いことだけしよ?」
それは身体は繋げないと言う意味だと数秒後に理解した坂下は
「なんでだよ?」
と不機嫌な声で聞く。
「だって….…痛いよ?多分」
その痛みのせいで二度と触れさせて貰えなくなるくらいなら、このまま優しく抱き合って眠るだけで充分幸せだと城野は思う。
なのに
「そんなこと知ってる」
たったひとことでその幸せは崩れていく。
自分以外の誰かが坂下に触れたと思うだけで込み上げてくる嫉妬で苦しくて息が出来なくなる。けれど
「俺だってそういう本読んだことくらいあるし、ネットとか?今時いろいろあるだろ。ってか、やっぱり俺が下かよ」
そう言って坂下が笑うから直ぐに誤解だと分かって狭量な自分を嫌悪する。それでもやはりホッとしてしまうのはこの恋にそれだけ溺れてるせいだった。
「ゆづがイヤならオレが下だって構わない」
それは心から出た言葉だった。
ーーゆづの為なら何でも出来る
まだ少年と呼ばれた頃から女とも男とも手当たり次第に寝てきた城野は時には抱かれる側にさえなってみた。
「ゆづが痛いのは絶対にダメだからッ」
映画の帰りに偶然肩がぶつかっただけの相手に食ってかかった城野を思い出して坂下は胸が痛くなる。
城野の言葉が嘘じゃないと分かるから辛くなる。
だから思いっきり強く男を抱き寄せる。
「城野ぉぉぉ、なぁ、ユキ?……俺はお前の思ってくれてるような男じゃない……よ」
「ゆづ?」
「それでもいいのか?それでもいいなら全部、
ーー俺の全部、お前にやる
溺れる人間が求め合うみたいに二人の身体は絡み合った。上になり下になりながら、もうどこにもお互いの唇が触れていない場所がないくらいに口付け合った。
背後からの挿入が楽だと気遣う城野に坂下は
「後ろからだとお前の綺麗な顔が見られない」
と言ってその綺麗な顔を大事そうに両手で包む。
「好きだよ、お前の顔」
親からも大嫌いだと言われたこの顔を大好きな人が好きだと言ってくれる。
「じゃぁずっと見てて、オレのこと」
「ああ。見てるよ」
「ゆづ……舐めて」
差し出された指の意味にほんの少しの脅えとそれ以上の興奮を感じながら、言われるままに男の美しい指を坂下は咥えた。
指を出し入れされて粘膜を愛撫される。
「美味しい?」
夢中で指をしゃぶる坂下を目を細めて見ていた男は突然その指を引き抜いた。そしてまるで自分の指に嫉妬したかの様に激しく坂下の唇を奪った。嚥下しきれない唾液が口中に溢れて重ねた唇の境目から零れていく。二人の男の息遣いは室内を淫猥な色に染め上げていく。長い口付けからやっと坂下を解放した男はさっき彼の口内を犯していた同じその指をペロリと自分で舐めてみせた。
「ゆづの味がする」
指を咥えて首を傾げる美貌の男は壮絶な色気を惜しみもなく見せつける。そして二人の唾液にまみれた指でそっと坂下の後孔に触れる。
「あっ……」
「大丈夫、優しくする」
指は中には触れず縁を柔らかく押すように愛撫する。
「ゆづ。ゆづ……ゆづ、好き。ゆづが好き。だから怖がらないで。オレを怖がないで」
ーーお願い
時間をかけて丹念に愛撫された蕾はやがて何かを期待するみたいにほころんだ。ぷつりと指先を少しだけ挿れられて反射的に腰を引くと今度はとっくに勃ち上がっていた昂まりをあやすみたいに柔らかく握り込まれて力が抜けてしまう。
「……あっ、ぁ……ユキ……ユキ……」
うわ言のみたいに名前を呼ぶと
「何?」
男が望む言葉が何かなんて分かっている。
「ゆづ……言って?」
「……」
「ゆづ、お願い」
ーーオレを欲しいと、言って欲しい
「ゆづ、言って」
じゃなきゃ奪えない。
ーー何も、何一つ貴方から奪いたくない
「ユキ。お前が欲しいよ。だから、早く……
ーー早くオレをお前のものにしろ
ぎゅっと睨み付けるような強い眼差しと口調で坂下は自分に覆い被さる美貌の男に命令を下した。
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