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第2章20話 壊れて

「なぁ、新三年生対象の笠原教授の勉強会、もう申し込んだ?」 後期試験が近づいたある日、学生課の掲示版の前で立ち止まって、筒井が聞いた。 「ああ。笠原教授のゼミ取るつもりだしな。騙されるな。あれは自由参加じゃないぞ、強制だ」 眉を顰めて坂下が言うと、筒井も訳知り顔で頷いた。 事実、二泊三日の勉強会に不参加でゼミに入れた学生はいない。 「オレ、行けなくなったから。代わりに行けば?」 申し込み用紙をなくしたとかなんとか、言っている筒井に城野がそう言った。 「行けなくなった?なんでだよ?」 尖った声で言ったのは、代わりに行けと言われた筒井ではなく、坂下だった。 問いただされて、城野は瞳を揺らす。 「用事が出来たんだ」 不自然に逸らされた視線は嘘の匂いがした。 「用事って、何だよ?将来を決めるかもしれない大事なことなんだぞ」 これ以上は言ってはいけないと理性がストップをかける。 だけど 止まらなかった。 止められなかった。 「その用事は、変更出来ないのか?そんなに大事なことなのか?」 誰がどう見ても、いつもの坂下ではなかった。黙って聞いていた筒井が、落ち着け、というみたいに、坂下の肩に手を置いて、ポンポンと軽く叩いた。 それを見た城野の顔が歪む。 頑なに閉ざされた唇。 逸らされたままの視線。 これまでも自分の将来に対して、城野はどこか投げやりだった。そのことを心配に思うことはあっても、こんなにも苛立ったことは、一度もなかったのに。合わせることを拒否するように、自分を見ない視線が坂下を追い詰める。 「大病院の息子は余裕だな。医学部に行けば良かったんじゃないの」 自分が吐いた醜悪な科白に吐き気がした。

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