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第2章14話 歪んで
「会いたい」と最後まで言えなかったのは、まるでそこが自分の帰る場所だと言うように、この部屋から真っ直ぐに親友の元に行ってしまったから。全て自業自得だと理性では解っていても、感情がそれを押し流していく。
ーーゆづ
誰にも触れさせたくないくらいに
ーーアイシテル
焦がれ続けた綺麗な背中。真っ直ぐに走る背骨の一番上から順番にキスを落としていった。早くひとつになりたくて。だけど傷付けたくなくて。だから指と舌と吐息で丹念に硬い蕾を愛した。
早くなる呼吸と汗ばむ掌を重ねて、二人はひとつになれた。はずなのに。
「ちくしょうっ」
脳裏を過ぎるのは恋人の側で笑う男。
ーー筒井俊介
壁に拳を打ち付ける。
殴りたいのは壁なんかじゃなくて。だけど筒井俊介でもなかった。
城野が許せないのは自分自身だ。
ーーゆづは泣いたのだろうか?
好きな人を傷付ける。
ほんのわずかな傷さえも、ついて欲しくないと願う人。
まっさらな白い布のように美しい人。
その人を傷つけた。
好きな人を傷付けた。
その事実は痛みと同じ分だけ昏い喜びを城野に感じさる。だけど、想像の中でさえ、その涙を拭っているのは、自分でなければならないのだと、城野は思う。
「城野」
名前を呼ばれて城野は我にかえる。
「彼、見つかった?」
心配そうに揺れる瞳。
どんなに親しくなっても、何度寝ても、深月は自分を「城野」と、呼ぶ。下の名前が城野にとって特別なものだと、言葉にした訳でもないのに察しているのだ。
そんな微妙な距離のとり方、気遣いの仕方にいつも城野は心安らいだ。
「ああ」
「良かったぁ。もし良かったら私、直接、ゆづくん……彼に、謝るから」
「ゆづくんで、いいよ」
城野がそう言うと深月はくしゃりと顔を歪ませた。
「大丈夫だから。オレとゆづは大丈夫だから。だから、深月は泣かなくていいいよ。
オレたちは……」
ーーダメになったりしない
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