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第2章15話 学食で①

二限が終わった後の混み合う学食で、気の合わないふたりが向かい合って座っていた。 無造作にテーブルの端に置かれていた教科書が、ばさりと音をたてて落ちる。テーブルの横を通った女子学生の肩にかけていた鞄が‘当たったらしい。 「ごめんなさい」 慌てて落とした本を拾い上げて、城野の顔を見た瞬間に彼女は一瞬固まった。それを無視して落ちた本を受け取ると、城野はついてもしない汚れを手で払う。 何か言いたそうだった女子学生は、その仕打ちに顔を赤らめて立ち去った。 「ひでぇー、お前さーほんとは女嫌いなんじゃないの?って時々思うわ。まっ、そんな筈ないんだろうけど」 意味あり気な筒井の軽口はあっさり黙殺される。 もうすぐ坂下が現れるはずだ。 城野はその姿を求めて学食の入り口に視線をやる。 それを見て筒井は溜息をつく。 「俺はお前が(わか)らん」 まるで捨てらるのを恐れる子犬みたいな目をしていつも坂下の姿を探している癖に。 「何で他の女にも手出すかね」 「お前に何が解る?」 城野が冷たく睨み付けても筒井は怯まない。 「ああ、だから言ってる、俺にはお前が解らんってな。まぁ、解りたくもないけど。何しろ大事なもん、人質に取られてるし?」 「それはゆづのことか」 聞き捨てならない言葉に城野の声は低くなる。 「他に何がある?」 坂下は知っているのだろうか?と城野は思う。自分が「俊」と呼び親友として近くに寄せている男のこんな(かお)を。 楽しげな会話で賑わう学食で、ふたりのいる場所だけが、一触即発の緊張感に包まれているようだった。 それを破るみたに、テーブルの上のスマホが着信を知らせて震え出す。表示された名前を見た城野は、直ぐにスマホを手にして席を立つ。そしてそのままどこかに行ってしまった。 「深月?」 電話の相手に呼びかける甘やかな声が微かに聞こえて、筒井は顔を顰めた。 そして、ここに居ない親友を思って苦い息を吐く。

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