26 / 64

第2章16話 学食で②

「あれ?城野は?つか、お前またカレーうどんかよぉぉー」 テーブルの上に置いてあるのは確かに城野の鞄で、だけどそこに持ち主はいなかった。 ポツンと目の前にある鞄が、まるで忘れられて、置きざりされたみたいに坂下には見えた。 「あ?さっきまでいたけど、スマホ持ってどっか行った」 丼から麺を持ち上げた箸を空中で止めて、筒井は答えた。そして城野が立ち去っていった方向をあっちと顎で指し示す。それは坂下が入って来たのとは逆方向の学食の出入り口だった。 「そっか」 城野がいないことにどこかホッとしている自分に坂下は苦笑する。 あれから会うのは今日が初めてだった。 会った時、まず最初に何と言おうかと、そればかり考えて。だけどどれも違う気がして。だから何も思いつかないままにここにきた。 それでも、そわそわと落ち着かないのは、やっぱり会いたいからだ。 何も聞かずにおこう。 それだけは決めていた。 城野が「要らない」と言うなら、坂下は友達に戻るだけだ。 その癖、ちくりと針で刺されたみたいに胸が痛んで、坂下は顔を歪める。 「おい。大丈夫か?痛むなら、早く座った方がいいぞ?」 原因不明の痛みの発作は、もう何年も坂下を苦しめていた。 何軒もの病院で検査を受けても、痛みの原因である病の診断名は、告げられなかった。 「いや。平気だ」 心配する親友の言葉に、坂下の声は固くなる。痛みの発作だと、勘違いさせてしまう程、自分は辛そうな表情(かお)見せていたのかと申し訳なく思う。 だけど、さっしのいい男はすぐに、にやけて 「何だよ。そっちか。気になるなら、行ってこいよ」 手に持った箸で大げさにしっしっと坂下を追いやった。

ともだちにシェアしよう!