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第3章 思い出の眠る町で12
結局、声さえも聞かないままで、その春休みは終わった。
坂下と城野が再会して以来、二人がこんなに長く会わずにいたのは初めてだった。
「オレをひとりにしないで」
甘えたがりの美貌の恋人はいつもそう言うから。
「ゆづがいてくれたら、オレ、もう何もいらない」
そんな風に、まるで坂下が一番大事な宝物みたいに腕に閉じ込めるから。
だから、いつの間にか坂下は錯覚していたのかもしれない。
自分が『深月』の存在に目を瞑ってさえいれば、二人は終わらないと。
四月になったキャンパスに城野の姿はなかった。
「なぁ、俺、本当は、あいつの中で俺が一番じゃなくても、良いって思ってた、気がする」
一度だけ、筒井にそんな話しをした。ほんの少し飲んだアルコールのせいにして。
「それで、あいつのそばに、いられるなら。だけどな、ダメなんだよ。それじゃあ……俺の母親と同じになってしまう」
たった一度の浮気で出来た子供。
それが原因で、坂下の父は愛してもいない女、坂下の母親と結婚した。
当時、父には結婚を約束していた恋人がいて、母はその恋人の友人だった。結局、ふたりは離婚して、父は恋人だった人と結ばれた。
それが今の坂下の継母だった。
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