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第3章 思い出の眠る町で13
ガサッという物音に、坂下は歩みを止めた。
ゆっくりと背後を振り返る。
「よぉ」
「よぉ、って、お前、なんで……」
「驚いたか?」
そう言って、にかっと笑ってみせるおどけた表情に、ホッとして肩の力が抜けた。
「驚くかよ。バカ」
不意にもれた微笑みを隠すみたいに俯いて、前を向いて再び歩き出す。
「彼女との旅行は、どうしたんだよ?」
「えっ?あ、お前、それ聞く?聞いちゃう?俺が今、こんな所にいる時点で察しろよぉ」
前を行く坂下に筒井は数歩で追いついて隣りに並ぶ。
「こんな所で、悪かったな。来てくれなんて、誰も頼んでないぞ?はいはい。俊介くんはまたふられたんですね」
親しみ易い明るいキャラクターだけではなくて、少しくせのある柔らかな髪とタレ目気味のその風貌を好きだと思う女性は多いらしく、ふられた、ふられた、と騒ぐ筒井には、だけど途切れることなく新しい彼女が出来た。
しかし、毎回長続きはしない。
「お前の住んでたとこ、見とくのも悪くない。って思ったわけ」
辺りを見回しながら筒井はそんなことを言う。
筒井の目線を追うように坂下もまた周囲を見渡す。
花や植木が好きだった祖母のせいで庭はいつも賑やかだった。
世話をする人間のいなくなった木々たちは、枝を上へ、上へ、と伸ばし、それはまるで少しでも空に近づこうとしているみたいに、坂下には見えた。
本当はここに来るのが怖かった。
たどり着いた玄関の前で坂下はそう気付く。
「ああ、そうか……」
唐突に答えが分かった。
「だから、お前は来てくれたんだな」
「ん?なんのことだ?」
隣に立つ男の顔を間近で見つめる。
大事な人はいつも自分から去って行った。父も母も祖母も……恋人 も
「お前は、俺のそばを離れないでくれ」
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