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第3章 俊介 3
真冬の動物園でサルを見たあの日。
冷たい風が親友に、せめて少しだけでも当たらないようにと、筒井は風上に立った。
傷付いた心が風邪をひいてしまわぬように。
観覧車の下を通りかかった時、坂下は不意に立ち止まった。
つられて足を止めた筒井も空を見上げる。
きっと誰も乗っていないだろうゴンドラが風に煽られて揺れていた。
「あんだけ揺れたら怖いだろうな」
「案外、乗ってたらそうでもないんじゃないの?」
「そんなもん?」
「さぁ。乗ってみる?」
「いやぁ、やめとくわ」
「そっか。野郎ふたりで観覧車でもないか」
そう言ってフッと視線を逸らした横顔が寂し気で。
何か、なんでもいいから、急いで話しかけてやりたくなってしまう。
いつもそうだった。
筒井はただ親友に、坂下ゆづるに、
心から笑っていて欲しかった。
「もし、あのゴンドラから、親友と恋人が飛び降りたら、お前ならどっちの手を掴んで引き上げる?」
咄嗟に口から出たのは、自分でも呆れるくらい突拍子もない話しで。
「何それ?」
坂下は眉を顰めて筒井を見た。
「別に、何でもないけど。なんとなく」
別に、返事などどうでも良かった筒井はひとり歩き始める。
なのに
「恋人でも親友でもなく、俺はお前を助ける」
声は追いかけてきた。
「良いのか?そんなこと言っても。俺を助けるとアイツは落ちるぞ?」
振り向かないまま大声でそう言ってやる。
「ああ。良いよ。お前を助けて、俺は、アイツと落ちる」
筒井が振り向くと坂下は観覧車の下で立ち止まったまま笑っていた。
それは筒井が望んだ笑顔ではなくて、胸が締め付けられる切ない笑顔だった。
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