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第3章 俊介 4
あの日、坂下が一緒に落ちても良いと言った男は、消えた。
二月のある日、些細な事件とも言えない出来事があって、だけどそのことを坂下はひどく気にしていた。
ハクモクレンが咲く夜。
勉強会の帰り道。
「謝りに行ってくる」
何かをふっきったように清々しい表情 をした親友の
背中を見送った。
「上手くやれよ」
そうじゃないと俺が困るんだ、痛いみたいに目を細めて筒井は呟いた。親友には届く筈もない小さな声で。
なのに
「お前は、俺のそばを離れないでくれ」
あの日、見送った背中が泣いている。
空へと咲く揺れる花びらの下。
「俺はずっと、そばにいるよ」
ーーお前が望むなら
ーーずっと
ーーずっと、親友のままで
「そばにいるよ」
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