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第3章 俊介 7
「ここ、お前の友達の紹介だろ?随分高そうだけど、大丈夫か?」
案内された和風モダンな部屋には、露天風呂まで付いていて、連れて行けと言った癖に、その宿泊料金が心配になってきた筒井はそう言った。
「んー、どうだろう。佐々木んとこの会社で押さえてる部屋だから、支払いはいいって言ってだけど」
その言葉に全面的に甘える訳にもいかないだろう。と、坂下は思うのに
「おぉー、それなら心配はないな。なぁ、ロビーの横に売店あったろ?ちょっと、見にいかないか?
筒井はもうそんなことを言っている。
「替えのパンツとか売ってるかな。いや、外、出たらコンビニで買えるか……」
最早、筒井の関心は宿泊料金から着替えのパンツに移っているらしい。
「お前、行って来いよ。俺はちょっと、疲れた」
そう言って、坂下は部屋の奥まで歩いていくと、大きな窓の側に置かれたソファに、ふぅぅ、と、ため息をついて腰を下ろした。
それを見た筒井の表情は途端に曇った。
「最近、痛みはどうなんだ?」
低くなった声は、それ程、相手を思うからで、ぶっきらぼうな口調は、その思いを知られたくないと思うからだった。
決して弱味を見せない親友がせめて自分の前だけでは無理せずにいられるように。その為なら
自分は道化で構わないと。
筒井はずっとそう思っていた。
城野由貴、という人間が、現れるまでは。
笑みを消した男はゆっくりと坂下に近づいていった。
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