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第3章 まぼろし 6

離れていく心を繋ぎ止めて置くことなんて出来ない。 解っているのに坂下はどうしても、城野を放したくなかった。 「お前、なんでここにいたの?」 今更なことを今更聞いた。 「別に、通りかかっただけ」 ぎぃぃぃと古い門は音を立て、ふたりを見送った。 けれど、そこから動けない。 柔らかな日差しがふたつの影を作り出す。 影だけでも連れて行きたい。 影だけでもついて行きたい。 坂下はそう思う。 「ここ、俺のばあちゃん家だって、お前知ってた?」 「まさか」 「そっか。彼女に聞いたのかもって思った」 「彼女。彼女って誰のこと?」 「佐々木深月さん。ここで俺と同じ中学に通ってた。俺は途中で転校しちゃったけどね。すごい偶然だろ?」 全然、可笑しくないのに坂下は笑ってみせる。 「すごい偶然だね。だから何?深月からゆづが昔、住んでた家だって聞いて、それでオレがここに来たとでも?何、それ。ウケる」 泣いてるみたいな顔をして 「ゆづのことなんて、とっくに忘れてたよ」 男はそう言った。

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