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第3話
その日、僕は懐かしい夢を見た。
おばあちゃんが死んだ時の記憶。
そもそも雅治さんと出会ったのはこの時の事故がキッカケだった。
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僕は都会から少し離れた田舎町に暮らしており、父は僕が小さい頃に他界し、幼い頃から母が女手一つで僕を育ててくれた。
しかし、母は生計を立てるために必死に働いていた。
家を朝早くに出て、夜遅くに帰ってくる。
だからいつも僕の世話をしてくれていたのは、近くに住む祖母だった。
おばあちゃんが死んだのは、僕が高校三年生の時だった。
その日も普段通り、僕の夜ご飯を作り、「また明日。」、そう言っておばあちゃんは僕の家を出た。
おばあちゃんが家を出て、一人で夜ご飯を食べている途中、この田舎町ではあまり聞くことのないパトカーと救急車のサイレンの音が聞こえた。
そしてその直後、家の電話が鳴った。
『もしもし。小泉さんのお電話番号でお間違い無いでしょうか?』
「はい…。」
受話器に表示されていたのはおばあちゃんの電話番号だった。
だけど受話器越しに聞こえる声は男の人のもので、僕は不審げに返事をした。
『おばあさまが車に撥ねられました。今救急車で救命処置を行なっていますが、もし近くに住んでおられるなら急いで来てくれませんか?○○通りの交差点です。』
そう伝えられて、僕はサッと青褪めた。
ずっと僕のことを大切に育ててくれたおばあちゃんが死ぬかもしれない。
さっき、「また明日。」と別れたばかりなのに。
さっきまで、笑っていたのに。
僕は鍵も閉めずに家を飛び出し、全速力で伝えられた交差点に向かった。
向かっている途中、何度もおばあちゃんの笑顔が頭をよぎる。
「生きていて。神様、お願いします」
何度もそう願う内に、自然と口から言葉が漏れる。
躓いても、靴紐が解けても、そんな事を気にする余裕はなくて、ただ走り続けた。
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