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第6話
事故現場には毎日一輪の花が置かれていた。
初めは気のせいだと思っていたが、一週間以上、毎日新しい花が置かれているので、ある朝僕は散歩がてらその交差点を見に行った。
そこには花を置いて手を合わせる雅治さんの姿があった。
僕は信じられなくて、何も見なかったことにしようと急いで家へ帰った。
葬式の日、母にはああ言ったが、僕も雅治さんのことは許せなかった。
事故にしても、大切なおばあちゃん命を奪ったのだから。
でも次の日も、その次の日も、花は置かれていた。
雅治さんは本当に反省して、そして天国にいるおばあちゃんの幸せを願っている。
その事実はまぎれもない真実なのだ。
「あの…、一緒にお墓参り……してくださいますか?」
「えっ…。いいん…ですか……?」
僕はとうとう雅治さんに話しかけた。
しゃがんで花に手を合わせていた雅治さんは、驚いたように僕を見上げた。
僕はこの時初めて雅治さんの顔をちゃんと見た。
芸能人のように整っていて、思わず言葉を失い、僕と雅治さんの間に沈黙が続いた。
「あの……」
「あ、えっと、毎日手を合わせてくださってるから…。おばあちゃんもあなたみたいな人なら喜んでくれると思います。」
「ありがとう…。君は優しいね。」
それから毎日、僕は雅治さんとおばあちゃんのお墓参りに行った。
雅治さんはいつも高そうな墓花と、おばあちゃんが好きだった和菓子をお供えしてくれた。
おばあちゃんが和菓子を好きだったことは僕が伝えたのだ。
雅治さんがおばあちゃんのこと、もっと知りたいって言ってくれたから。
おばあちゃんのことを話すと、雅治さんは「こんな形で会いたくなかったな。俺も小泉さんとお話ししたかった。」と、そう言っていた。
自然と雅治さんとの会話や会う時間は増えた。
雅治さんはお墓参りの後にカフェなどに連れて行ってくれて、僕の学校での話や将来の相談を聞いてくれていた。
そんな雅治さんを好きになるのなんて、気がつけばあっという間だった。
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