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第2話 僕のバレンタイン

僕のバレンタインは朝だけ。 いつもより早く家を出て拓真の家のポストに作ったチョコを入れる。それでおしまい。 僕がポストに入れてるってことは拓真は知らないと思う。もしかしたら、気持ち悪くて捨てられてるかもしれないけど…もちろん名前は書いてない。 「今日も寒いな…」 毎年恒例行事のように拓真の家のポストに小さめの箱を入れてから朝練がある学校へと向かっていく 拓真がいつも通り家を出てポストを開けると毎年当たり前のように入っているバレンタインチョコを片手にとると思わず笑みをこぼして チョコを持ったまま学校へと歩いていく 「今年はどんなのかなー?」 歩きながら包みを開けて箱を開けるとツヤツヤした四角いチョコが2つ入っており、1つにはアーモンドスライスが乗っている どっちから食べようか迷ったがアーモンドスライスが乗った方から食べる事に 「ナッツだ…」 カリカリと香ばしい香りとチョコの甘い香りが口の中に充満する 「うっま…また腕あげたな…」 すぐに溶けてなくなってしまうチョコを惜しむように箱を見つめ、もう1つのチョコを口に入れる 「オレンジピールだ…こっちもうめぇ…」 やはり溶けてすぐなくなってしまったのを名残惜しくも箱をしまって空箱を鞄に入れて 「よし」 気合いを入れ直して駆け足で学校へと向かう いつもの時間に部活が始まるとバレンタインのせいもあるのか朝から女の子たちが入り口から見学している そんな女の子を横目に安曇はボール磨きをしつつ拓真を自然と目で追う 「今年も凄いんだろうなー…」 毎年、山ほどもらうチョコレートを紙袋に入れて持ち帰る拓真の姿を思い出しつつ小さくため息をついて 「よし、今日はここまでにするぞ。片付けて急いで着替えろよ」 「はーい」と部員たちが片付けを始めると安曇もボールを片付けて更衣室で制服へと着替える 「拓真もうチョコ貰ったのか?」 「くれるって言うから…」 更衣室に戻ってきた拓真と西川が会話をしながら入ってくる 「モテますなぁー…俺なんか姉ちゃんと母さんだけだし。めっちゃ義理チョコ」 「数あっても食べきれなくて困るだけだって」 「モテるやつのセリフだな…」 二人の会話に「確かに」と内心呟くと小さく頷いて 「安曇は貰ったのか?」 「へ?」 「チョコだよ」 突然、拓真に振られて驚き変な声をあげると左右にブンブンと首を振り 「貰うわけないよ。拓真じゃあるまいし」 「マネージャーはあげる側だろ?」 「ははは、そうかも。作る方が好きだし」 西川に笑って返すとロッカーを閉めて鞄を手に持つ 「安曇だって男なんだから貰う側だろ」 「僕にあげる女の子なんかいないよ。お先にー」 拓真の主張も苦笑いで受け流すと先に更衣室を出て教室へと歩いていく 廊下の端々で誰にチョコをあげたなど話が聞こえてくる 廊下の窓から体育館入り口を覗くと早速女の子に囲まれる想い人の姿が目に入り小さくため息をついてしまう 「いいな。直接渡せて…」 自分も女の子だったら渡せたんだろうなと直接渡している女の子を羨ましく思い窓から離れて教室へと向かう いつも通り部活も終わると更衣室でジャージから制服に着替えてるとチョコをいくつか持って拓真がやって来る 「拓真、お疲れ様」 「お疲れ」 「また、貰ったの?モテモテだね」 ロッカーの中には紙袋いっぱいにチョコが入っており今もらったのをギリギリ入れる 「気持ちは嬉しいけど…こんなに貰っても食べきれないから勿体無い」 「じゃあ断ればいいのに」 「来年からは断ろうかな…」 ジャージを脱いで制服へと着替えながら呟く拓真の言葉に来年はやめた方がいいかなと考えてると先に着替え終わった拓真に顔を覗き込む 「ほら、早くしろよ。帰ろうぜ?」 「え?あ、うん…」 帰ろうと誘われるとは思わなかったので少し驚き、覗き込んで来た顔の近さにほんのり頬を赤く染めて 支度を終えると鞄を持って部室を後にする安曇は拓真の一歩後ろを歩いてついていく 「安曇は結局チョコ貰ったのか?」 「え?」 「バレンタインチョコだよ」 「あー…女の子からは貰ってないよ。クラスの男の子から分けて貰った感じ」 小さいやつと付け加えて相手に説明をしているといつの間にか隣に並んで歩いている拓真の顔をチラッとみる 「ふーん…」 少し不機嫌そうな感じもするが、こちらの視線に気がついたのか目が合うとにこっと笑いかけてきて それを直視してしまい一瞬で顔を赤くして思い切り顔を背ける (ぅ…カッコいい!!!心臓飛び出るかと思った…!いや、もう出てるかも!!) 落ち着けと自分の高鳴る心臓に言い聞かせるが上手く言うことを聞いてくれず焦っていると鞄から小さな箱を取り出して安曇の前に差し出す 「安曇、これやる」 「え?」 差し出された箱には綺麗にラッピングされ見るからにチョコが入っていそうで拓真がなぜくれるのかわからず箱と拓真の顔を交互にみて 「俺から。買ったもので悪いけど」 いつまでも受け取らない安曇の手を取り箱を握らせると手を離して 「今は男からも渡すんだって」 「何で僕に?」 「安曇のことが好きだから」 「え?!」 「あと色々お世話になってるし」 「あ……うん」 好きだと言われ驚き頬を赤く染めた瞬間、義理チョコだと判明してちょっとがっかりするが貰ったチョコを嬉しそうに眺めて 「有難う拓真」 「安曇からは毎年貰ってるからな」 嬉しそうに箱を見ていると拓真の言葉にドキッと心臓が跳ねる感覚に襲われる 「今日もポストに入ってたしオレンジもナッツのやつも美味かった」 自分だと分からないようにポストに入れていたのにすでにバレていたことに驚き恥ずかしさで顔を両手で覆う 「僕だって知ってたの?」 「え?小さい頃から知ってたけど…?」 (あああああー!なにそれ!!恥ずかしい!!バレてたとかめっちゃ恥ずかしい!!) 悶えてる安曇をよそに拓真も少し照れた表情を向けて 「なんか…チョコ渡すのって照れるな。何で安曇がポストに入れるのかわかった気がする」 全然そんな理由ではなかったが納得してるようだし、まぁいいかと顔の熱を冷ますように手で仰ぎながら相手の顔を見つめて照れている姿を堪能する 「他の人にもチョコあげたの?」 「いや、安曇だけ」 「そう、なんだ…」 特別扱いを受けたことにドキドキと心臓が煩く響いて少し引いてきた顔の熱も復活してしまう その後は何となく照れてお互いあまり話すこともなく分かれ道にさしかかってしまい 「じゃあ、また明日ね」 「おう。来年のチョコも期待しとく。じゃーな」 片手をあげて別れを言うと背を向けて歩き出す拓真を見つめつつ安曇は一人照れている 「……僕があげるのはいいんだ」 部室で「来年は断ろうかな」と言っていた相手の言葉とは反対に自分のは期待されていることに嬉しくなりにやけ顔のまま拓真とは反対方向へと歩き出す 来年はクラスの女の子たちみたいに可愛く渡せるように頑張ってみようと誓う安曇だった。

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