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第5話 僕と赤点

拓真は頭がいい。というか、何でもコツコツやるタイプ。勉強もバスケも。僕と違ってテストで赤点なんかとったりしない… つい先日やった定期テストが戻ってきて用紙を持った手がプルプル震える 「ど、どうしよ…」 顔を青ざめつつ帰って来た英語の答案用紙を見つめて、変わることはない29点という数字に頭をかかえる安曇 「赤点のやつは来週の放課後に追試やるから勉強しとけよ」 「追試…」 先生から告げられた追試という言葉に、ギクリと肩を跳ねさせる 放課後、体育館に行く道すがら、部長と安曇が何か会話してるのを見かけ、近付こうとしたところに西川がやってきて拓真に声をかける 「拓真、どうした?」 「いや、あれ何話してんのかと思って」 安曇がペコペコ頭を下げて部長に何かを謝っている様子に首を傾げて、隣の西川をみる 「さぁ?」 西川も聞いてないのか安曇が部長から離れると、二人で近付き声をかける 「部長、マネージャーどうかしたんですか?」 西川と拓真に声をかけられて二人に顔を向けて苦笑いを漏らすと、こそっと二人に話す 「英語赤点だったみたいだ…来週追試だから土日は部活休んで勉強させてくれって頼んできたんだよ」 「…追試」 「今日から図書館で勉強しろって言っておいたけどな」 「マネージャー英語苦手だからなぁ」 気にしている様子の拓真を、西川と部長が見つめてニンマリと笑う 「拓真が英語教えてやれよ」 「部活なら遅れてきてもいいぞ」 拓真の背中をポンポンと軽く叩くと部長は先に体育館へと向かって歩き出す 「悪い、ちょっと遅れる」 「おう、ごゆっくりー」 安曇が向かった図書館の方へ歩いて行く拓真を、横目で見送ってから西川も部活へと向かって歩き出す 図書館にやってくると、テスト明けのせいか人はあまりおらず、座って勉強しているのは安曇だけ 静かに近付いて隣の椅子に座る 「うわっ…拓真!な、何でここに?」 急に隣にやってきた拓真に驚き、大きな声を出しそうになるが抑えて 「部長に聞いた。追試があるんだろ?」 「ぐ…英語だけだけど…」 追試という言葉に恥ずかしそうに頬を赤らめて顔を背けて 「本当に英語苦手だな…それで?追試の範囲聞いたのか?」 「テスト範囲と変わらないけど、テストで出した問題を中心に出すって言ってた」 「ふーん、じゃあとりあえず単語を全部覚えて…教科書ならここかな」 机に出ていた英語の教科書にペンを取り出すと印をつけていく その様子をキョトンとしながら見つめて 「何でここが出るってわかるの?」 「覚えた単語を使わせたいならここだろ?あの先生、穴埋め問題好きだし」 「そうなんだ…勉強出来る人は違うね」 感心したように告げて笑みを漏らすとノートをペラペラとめくり単語を書き出し始める 「次のテストは一緒にやるか?」 「え?」 ノートから顔を上げて隣の相手に、キョトンとした顔を向ける 「夏休みの合宿行けなくなるの困るだろ?また、赤点とったら次は補習だぞ」 「…ぅ…補習は…困る」 テスト範囲の広い期末テストは、勉強が苦手な安曇にとって毎回ギリギリ 夏休みともなれば、バスケ部は合宿に行くのが毎年恒例になっており、補習は合宿の期間と重なる 「マネージャーが合宿こなくてどうすんだ?安曇が作るカレー楽しみにしてるんだけど」 「カレーは普通だよ…合宿行きたいし頑張るよ」 去年、安曇が作ったカレーが美味しいとおかわりする部員が、数多くいた事を思い出し苦笑いを浮かべて 「うん、とりあえず追試頑張れ。部活終わったらまた来る」 そう言うと、席から立ち上がって荷物を手にして安曇が来なくていいと言う前に部活へと行ってしまう 「……もー、わざわざ見にこなくていいのに」 ただでさえ、好きな人に赤点だった事を知られて恥ずかしいのに出来が悪いのが露呈するのも恥ずかしく少しムスッとする 拓真が隣にいて勉強出来る自信はないが、合宿に行くためにも勉強頑張ろうと心に決め、またノートに単語を書き出していく それから、部活の前や後に拓真に勉強を見てもらい土日は家で一人で勉強を頑張り、あっという間に追試当日の月曜がやってくる 「あー、緊張する」 よし、と気合いを入れて追試場所になっている理科室へと向かう 理科室の扉を開けるとすでに数人が椅子に座り先生が来るのを待っている状態で、安曇も空いている窓側の席に座り筆記用具を机に置く (早く終わらせて部活いきたいな…) 窓から見える体育館をぼんやり眺めていると英語教師がやってきて、テスト用紙を配られ追試が始まる その頃、体育館ではいつも通り部活が始まっており、それぞれ二人一組で準備運動を始めている 「マネージャー追試大丈夫かなー?」 西川が開脚して体を前に倒しながら、後ろで背中を押してくれている拓真に話しかける 「大丈夫だろ。頑張ってたし」 「俺も拓真に勉強見てもらおうかな」 「お前は自分でやれよ」 背中をぐっと押すと西川の悲鳴が下から聞こえてくる 「パス練からやるぞー」 「はーい」 部長の声に西川を押していた背中から手をどけてあげる 「いててて…」 「体硬いぞ西川」 「寒いんだから仕方ない」 いつものようにパスの練習を始めてシュート練習を終えた頃、追試を終えた安曇が体育館へとやってくる 安曇がやってきたのに気がつくと部長が近寄り声をかけて 「マネージャー、追試どうだった?」 「何とか合格しました…すみませんでした。部活休んで」 「いや、大丈夫。今日はもうすぐ終わりだから着替えなくてもいいぞ」 「はい、わかりました」 部長に軽く肩を叩かれて笑顔を向け、いつものマネージャー席に座り救急箱の中身が減っていないか確認をする 「湿布と絆創膏が少なくなってる」 明日、取りに行こうと思っていると拓真が近寄ってきてドキッとして 「テストどうだった?」 「うん、ちゃんと合格してきたよ」 「偉い偉い」 ホッとしたような笑みを向けて、頭をわしゃわしゃ撫でてからまた練習に戻る拓真 頭を撫でられて硬直していた安曇は我にかえると両手で真っ赤になった顔を隠してプルプル震える (撫でられた!頭撫でられた!褒められた!) その様子を見ていた西川は戻ってきた拓真に安曇の様子を指差して気が付かせる 「ほら、お前が頭撫でるからマネージャーが悶絶してるぞ」 両手で顔を覆ったまま足をバタバタさせて落ち着こうとしている安曇の様子を見て 「…泣くほど嫌だったのか」 拓真には泣いてるように見えて少ししょんぼりと肩を落として 「違う。喜んでるんだよ。鈍いなぁ…」 「そうは見えないけどな…」 いやいや、わかるだろと内心ツッコミをいれる西川だったがそれ以上言うのはやめて練習に集中する 顔の赤みもとれて気持ちも落ち着くと皆んなの練習風景を眺めつつ、勉強を教えてくれた拓真に何かお礼をしようと考えて 「やっぱり、お菓子かな…」 拓真は甘い物が好きで女の子から手作りのクッキーやチョコレートを貰うことがある 料理が好きな安曇としてはお菓子をあげられるのならそっちの方が楽でいいが、渡しどころに迷って結局渡せなくなるのが目に見えており悩む 「女の子なら可愛く渡せるけど…男が男に渡すのはなんか変だよね」 手作りなら尚更変に思われそうで真面目な顔で悩み 「物を買ってあげるのはなんかなー…誕生日でもないし」 拓真にしてあげたら喜ぶ事って何だろうと考えるが、お菓子をあげる以外思いつかずため息をつき 「やっぱりお菓子かな…」 そうと決まれば何を作ろうかと考えていると、チャイムが鳴り放課後が終わったことを告げられ部員達が片付けを始めている 慌てて安曇も片付けを手伝おうとするが、ジャージではなく制服を着ているため大丈夫と断られてしまう 「マネージャー、今日はもういいぞ。明日はいつも通り頼むよ」 部長が安曇に近寄り軽く肩をポンポンと叩く 「あ、はい。わかりました」 「おい、拓真ー」 ボールを片付けていた拓真に部長が呼びかけると顔をこちらに向けて 「期末前はマネージャーに勉強教えてやれよー」 「そのつもりです」 少し遠くにいる拓真がこちらに聞こえるように少し大きめの声で答える その答えに部員達から「おー」とよくわからない歓声が聞こえてくる 「だってさ。勉強会で進展あるといいな」 「な、何にもないですよ!」 こそっと安曇に告げるとクスクス笑いながら部員は片付けに戻っていく 顔を赤くして叫ぶが部長は笑いながら行ってしまい安曇は壁際に置いていたカバンを手に取ると体育館を出て行く 「今回だって何にもなかったし…」 勉強してただけだから何かある方がおかしいけどと内心思いつつ、日が落ちて薄暗くなった通学路を歩いていく 「期末前もまた二人っきりで…」 二人っきりで勉強をしている姿を想像して頬を赤く染める 「ある程度出来るように勉強しておこう」 また、出来ない奴だと思われるのも嫌なので帰ってから勉強しようと心に決める安曇なのだった。

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