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第7話 僕とテスト勉強

夏になると生徒達はどこかソワソワし始める何故かといえば夏休みが近いからだ。 夏休みは楽しみだけど、その前のテストが僕にとっては山場だ… 「………」 前に約束した通り拓真に勉強を見てもらうことになった安曇だったが、学校帰り拓真の家に寄り部屋で二人っきり向かい合って勉強している状況に集中など出来るはずなく チラチラと集中して勉強している拓真の顔を盗みみては教科書と睨めっこを繰り返している (ヤバイ…全然集中出来ない) 拓真の部屋にある小さな机に向かい合っている状況で、尚且つ看病で訪れたのが最後。あの時に起きた出来事が何度もフラッシュバックしてしまい全く勉強に集中出来ないでいる (拓真はあの時の事どう思ってるのかな…僕がしたキスのことバレてたりしないよね?) 「こら安曇」 「っ!!」 急に拓真に声をかけられて驚き肩が跳ねる 「全然進んでねーじゃん」 「あ…えと…」 「わからないなら聞けって言っただろ」 「ごめん…」 呆れながら教科書のページを安曇と同じに合わせてプリントの問題と照らし合わせてから、安曇の隣に移動して教え始める 拓真の説明はわかりやすいが、安曇は近すぎる距離にドキドキしてしまい顔に出ないように必死に気を張って耐える 拓真の顔が耳元に近付くと息がかかり思わず声が出そうになるが、なんとか耐えるとちょっと身体を離して座り直す 「今の説明でわかった?」 「うん、わかったわかった」 コクコクと頷く安曇を見て小さくため息をつくと拓真は元の位置に戻り、中断していた問題を解き始める (…説明してる時少し離れたような…やっぱり嫌われてるなぁ俺) 看病してくれるくらいだから、そこそこ好かれてはいると思ってたが本当にそこそこらしく拓真は少しショックを受ける (あ、危なかったぁああっ!!変な声出るところだった!) 心臓がバクバクと高鳴り顔が赤いのを隠すために俯いて、一旦落ち着こうと問題を無理矢理解くが字が荒れている 「飲み物とってくる」 休憩しようと拓真が立ち上がり部屋を出て行くと安曇は息を吐いてホッとする リビングへとやって来た拓真は飲み物を用意しているとポケットに入れていた携帯から音が鳴る やかんに水を入れて火にかけつつ相手を確かめもせず電話に出て 「はい、もしもし」 「あ、拓真。ちゃんと飯食ってるかー?」 「蓮?そこそこ食ってるよ」 声で蓮だとわかり話を続けつつコップに紅茶のティーパックを入れてお湯が沸くのを待つ 「お前、暫く一人だろ?だから、まともな飯食ってないんじゃないかと思ってさ」 「コンビニで美味い弁当買ってるよ」 お湯が沸くと火を止めてコップにお湯を注ぐとティーパックから紅茶が滲み出てくる 「そんなことだろうと思った…俺のバイト先に来いよ。美味い飯食わせてやるから」 「奢り?」 「奢りでいいよ。後で地図送る」 通話を切られてしまい携帯をポケットにしまう。奢りならまぁいいかと思い壁にかかっている時間を見る 「安曇と一緒に出ればいいか…」 出来上がった紅茶をトレイに乗せて砂糖やミルクも一緒に乗せると二階へと戻る 拓真が戻ってくる間、問題をいくつか解き真面目に勉強していると階段を上がってくる音が聞こえてまた、ドキドキし始める 拓真が部屋に入ってくると紅茶の香りに顔を上げ拓真の方を見つめて 「紅茶の香りだ」 「こんなのしかなかった」 「紅茶好きだから平気。有難う」 机に置かれた紅茶をみて嬉しそうに笑うと角砂糖を一つ入れてスプーンでかき混ぜる 「安曇、何時くらいに帰る?」 「んー、6時かな」 「あと1時間か…先に着替えるか」 拓真が紅茶を一口飲むと立ち上がり制服を脱ぎ始め、クローゼットから普段着を取ると着替えて 「どっか行くの?」 「うん、蓮のバイト先に飯食いに行く」 「蓮くんに会うんだ…」 「安曇も会いたいのか?一緒に行く?」 「ううん、家で勉強するよ。補習は避けたいし」 首を振り苦笑いを向ける安曇に返事を返すと脱いだ制服をハンガーにかけてクローゼットにしまい向かいに座る 「蓮くんて面倒見いいよね。拓真が家で一人だから気にかけてくれたんでしょ?」 「多分…」 「お兄さんみたいだね」 仲のいい二人の様子を思い出したのか笑って言うと、また一口紅茶を飲む 蓮の事を楽しそうに言う安曇を見て内心ムッとするが気にしないように紅茶を一口飲む拓真 「羨ましいな…」 自分も蓮のように自然に拓真と接せられたらいいなのになと思っていると自然と口から言葉が溢れてしまう どうにか必要以上に意識しないようにと考えているが、いざ拓真を前にすると体と心が言う事を聞かなくなってしまい変に離れたりしてしまう その行動が嫌われていると思わせている要因だと安曇は知らない 「安曇って蓮のこと好きなのか?」 「え?」 「蓮に可愛がられたいって意味の羨ましいだろ?」 「は?え?そんなわけないじゃん」 「ふーん…」 勘違いさせてしまったのか少し不機嫌そうな拓真はカップを置くとノートに目を向け勉強を再開させてしまう どうにか違うと言う事を言いたいが何て言えばいいのか分からず唸る 「ち、違うんだよ拓真」 「んー?何が」 「蓮くんは友達としては好きだけど…そうじゃなくて」 手を止めて何か言いたげな安曇の顔をじっと見つめて安曇の言葉を待つ 「えっと…僕、他に好きな人いるし…拓真と蓮くんの仲良いのが羨ましいって思って言っただけで…」 「安曇、好きな人いるの?」 「え!あ…うん…ずっと片思い」 思わず口が滑った事を再度問いかけられると驚き、照れながら告げると向かいで驚いている拓真の顔を見つめて苦笑いして俯き手に持っていたカップの縁を指でなぞる 「拓真は…いないの?好きな人」 安曇の事で動揺していたため話を振られて驚き 「え?俺?」 「そうゆう話した事なかったから…」 「……いるよ。俺も片思い」 いると言われ安曇が顔を上げると少し悲しそうな顔で話す拓真に目が離せなくなってしまう 「でも、俺嫌われてるから多分脈ない」 「そ、そんなこと…拓真のこと嫌いな人なんていないよ!」 少しムキになり拓真に告げると驚いた表情を向けられる はっとして安曇が恥ずかしそうに俯くと拓真がクスクス笑う声が聞こえてくる 「な、なに?」 「安曇も感情的になるんだなと思って…有難う。安曇に言われると元気出る」 チラッと顔を上げて拓真の顔を見ると先ほどの悲しそうな顔ではなく、嬉しそうな顔に変わっており少しホッとする 「拓真を好きな人なんていっぱいいるよ。モテるし…」 「いっぱいはいらない。一人で十分」 安曇の顔をみて言われた言葉にドキッとして、その一人が自分ならいいのにと思うがそんなわけないと考えを頭からすぐさま消す 「安曇の好きな人って俺の知ってる人?」 「え?……うん、よく知ってると思う」 安曇の答えを聞くとうーんと考え始めてしまった拓真に困ったような表情を浮かべる 「僕も多分…脈ないから。ずっと叶わないと思うし」 自分なら安曇に悲しい顔させないのになと思うが、向けられている好意は自分ではないのが悔しく羨ましくもあり 複雑な感情が顔から出てしまいそうで手で顔を覆い隠す 息を吐き落ち着くと安曇をみる 安曇は俯いてシャーペンを持つと勉強を再開しようと教科書のページをめくる 「フラれたら慰めてやるよ」 「拓真もフラれたら慰めてあげる」 ふふふっとお互い笑って時間まで勉強を続けが好きな人が気になってあまり進まず、お互い複雑な気持ちのまま時間が来てしまい家から出る 「今日は有難う。家で頑張ってみるよ」 「おう」 「蓮くんによろしくね。じゃあまた」 帰る安曇を見送ると自分も駅前に向かって歩き始める 駅前にあるオシャレな定食屋で蓮は働いている。夜なのでそれなりに人はいるが、拓真を相手にする余裕はあるようで店に入るとすぐに蓮が近寄って来て席に案内される 「お好きなメニューどうぞ」 テーブルの上に並べられているメニューを手に取りどれにしようかと眺めて焼肉定食を指差す 「じゃあこれ」 「はいよ。ちょっと待ってて」 メニューを片付けてオーダー通しに行った蓮を見送ると窓の外に目を向けて駅前の景色をぼーっと眺める 蓮が水を持って戻ってきて拓真の前に水を出す 「安曇は元気?」 「うん、元気。さっきもテスト勉強一緒にしてたし」 「あーテストか…夏休み近いもんな」 「さっき聞いたんだけど、安曇って好きな人いるんだって」 「え?」 拓真から知ってた?と問いかけられて蓮はきょとんとしてしまう 「俺さっき聞いて驚いた。誰かまでは言ってないけど…」 「拓真知らなかったのか?」 「え?蓮誰だか知ってんの?」 「知ってる」 お前だよ。とは言わず呆れたようにため息をつくと倒れるように向かいの席に座る 「俺の煽りがいまいち効かないわけだ…」 「安曇に聞いたのか?」 「聞かなくてもわかる。わかりやすく顔に出てるし」 蓮も知ってる人だと割と限られるが、見当がつかず腕を組んで首を傾げる うーんと考えてる拓真を見て蓮はまた一つため息をつく 「拓真は候補に入ってないのか?」 「俺?いや、ないだろ。俺、嫌われてるし男だし。女の子はよくわかんないな…」 「嫌われてると思ってんの?」 「逃げるし避けるし離れるし…嫌われてるだろ?」 「はぁ?嫌いな奴と一緒に勉強すんのか?嫌いな奴がいる部活にわざわざ入部すんのか?嫌いな奴にバレンタインチョコやんのか?考えなくてもわかんだろ」 拓真の頭を軽くチョップすると席を立ち調理場の方へと行ってしまう 拓真はチョップされた頭を軽く撫でると確かになと小さく呟き、また考え始める 拒絶されている感じではないため話しかけたりもするし今日だって勉強一緒にしたりもする ただ話しかける分には逃げたりはしないが頭を撫でたりすると逃げたり硬直したりしてしまう。その時の表情は俯いてるからよくわからないが、赤くなって照れている気がする。 嫌いな人に対して赤面したりするだろうか…… (嫌いな奴の看病なんてしないだろうし…抱きしめてあんな顔しないよな…) 先日したお礼のハグを思い出しほんのり顔を赤くする (他の人と話す時は普通なんだよな…俺の時だけ…あれ?俺、好かれてるのか?) 「お待たせしました。焼肉定食です」 蓮が定食を持って戻ってきて拓真の前に定食を置く 「蓮、俺って安曇にめっちゃ好かれてる?」 「やっと気が付いたか。自分の事は本当鈍いな」 「悪かったな…いただきます」 箸を手に持つと目の前に置かれた焼肉定食を食べ始める また、向かいの椅子に座り食べている拓真に話しかける 「それで?どうすんだ?言うのか?」 「…何を?」 味噌汁をズズズと飲み、小皿にあった沢庵をポリポリと音を立てて食べつつ向かいにいる蓮を見る 「何って…告白しねーの?」 「っ!……はぁ!?」 驚き沢庵をゴクリと飲み込むと頬をほんのり赤く染めて蓮を睨む 「お前も好きじゃん安曇のこと」 何で知ってるんだ?顔に出てたのかと言わんばかりに目が泳ぎ食事の手を止める 「言うのか?」 「……さぁ?わかんね」 米を口いっぱい詰め込むと蓮の前に空になったお椀を突きつけ、おかわりと短く言うと照れた顔のまま肉も頬張りモグモグと口を動かす 拓真のはっきりしない返事に突っ込もうとしたが、お椀をつけつけられると受け取り椅子から立ち上がって厨房の方に歩いていく 安曇に好かれていた事がわかった拓真の事もつゆ知らず、安曇は英語の勉強をしていた 「拓真の好きな人ってどんな人だろう?」 夕方に聞いた拓真の好きな人が気になってあまり勉強は進まず、ぼんやり考え込んでしまう 「女の子に人気あるからなぁ…」 拓真に声をかける女の子は皆んな可愛いし美人。しかし、不思議と一人の女の子と仲がいいという状況にはなっておらず、誰が好きなのか見当がつかない。 本人曰く嫌われているらしいが、そんな女の子に話しかけている姿も見た事ない。安曇が見たことがないだけで話しかけているのかも知れないが。 「恋人出来たら…チョコはもう渡せないなぁ。誕生日は大丈夫かな…」 彼女の邪魔をしないようイベントごとは避けないとなぁと考えていると、どんどん凹んできてますます勉強どころではなくなってしまう 「彼女、出来ないでほしいな…」 ふと自分勝手な事をボソリと呟くとピコンと携帯にメッセージが届く音がする 携帯を手にとってメッセージを見ると蓮からで「勉強頑張れ」と短い言葉とともに、蓮とご飯を食べている拓真とのツーショット写真が添付されている 二人の写真に自然と笑みが零れてきて凹んでいた気持ちが少し浮上する 「楽しそう…」 行けばよかったなぁとちょっと後悔したが、夏休みになったら行こうと心に決め気持ちを切り替えて再び勉強に取り掛かる。

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