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第9話 僕と夏合宿
あれから数日が経つが二人が仲直りしたような様子はなく、部活で会う拓真はあの日から変わらない。友達をやめると言われたが態度や言葉に出ることはなく安曇には何が変わったのかよくわからなかった。
聞こうにもどう聞いたらいいのかわからず日々考えていると気がついたら合宿当日になってしまっていた。
「どうゆう意味だったんだろ…?」
広いキッチンで夕飯に使うじゃがいもの皮を剥きながら拓真に言われた言葉の意味を考える
「友達じゃなかったらなんなんだろう?」
マネージャー?同級生?幼馴染み?
どれも間違っていないがどこかしっくりこない。いくら考えてもわからないのでやはり聞くしかない。
「やっぱり聞いてみよう」
大量のジャガイモを剥き終えると今度は玉ねぎの皮に取り掛かる。
皮を剥き終えて切り始めたところで部員達がランニングから戻ってきて、あらかじめ用意されていた飲み物を手に取り飲み始める
「マネージャー、絆創膏ある?さっき紙で指切っていてぇんだけど」
一人の部員が玉ねぎを切っている安曇に近付き声を掛けるが、安曇が泣いているのに気が付き焦る
「え?何?大丈夫?」
「大丈夫、玉ねぎのせいだから…取ってくるからちょっと待ってて」
グズグズと鼻をすすり目を真っ赤にしながら切った玉ねぎをボウルに入れると、手を洗ってから救急箱を取りに荷物が置いてある部屋まで行く
その途中トイレに立ち寄っていた拓真にばったり遭遇し、急に腕を掴まれ顔を覗き込まれて安曇はドキッとする
「え?拓真なに?」
「何で泣いてんの?」
目を赤くして涙を拭った痕があり、拓真が真剣な顔で問いかけてくるが安曇はキョトンとしてしまう
「なんかあった?」
「え?ううん…何にも…玉ねぎが目に染みただけ」
「…何だ。そんなことか…」
掴んでいた手を離すとほっとしたように息を吐いて安曇から離れる
「悪い勘違い…」
そう告げると皆がいる庭へと戻って行ってしまう。安曇は何だったのかよく分からずボーッと拓真の後ろ姿を見送り、びっくりしたなぁと思いつつ救急箱を手に取り食堂に戻ると先程の部員に絆創膏を貼ってあげる。
「有難うマネージャー」
「うん、また何かあったら言ってね」
ニコッと笑い部員から離れるとキッチンに戻りカレー作りを再開
水分補給をし終えると合宿所の体育館でシュート練習になり、順番待ちの間先程の事をつい思い出してため息をつく
(好きなやつに告白して振られたのかと思ったけど…どんだけ気にしてんだ俺は)
ほっとしてるが勘違いして焦った自分を少し恥ずかしく思いまたため息をついてしまう
(友達やめるって言ってから何にもしてないな…どうするかな…)
腹決めて言った言葉なのに、いざ本人を目の前にすると緊張してしまい言葉が出てこなくなってしまう
(女々しいっつーか、ヘタレっていうか…何やってんだ俺)
自分の順番がくると軽く走り出しドリブルをしているボールをゴールの枠へと吸い込ませる
悩んでいる間に練習も終わり片付けをすませると皆シャワーへと向かう
「拓真、今日どうしたんだ?ずーっと眉間にしわ寄せて。顔こえーぞ」
片付けを終えて部屋に戻っていく拓真に西川が話しかける
「考え事だよ」
「深刻なことか?そんなら息抜きしようぜ」
西川がポケットから折り畳まれたチラシを取り出し拓真に差し出す
拓真が受け取り開いて見ると近くの神社でお祭りがあることが記載されている
「祭り?夜は出禁だろ?抜け出すのか?」
「ちょっとならバレねーよ。毎年行くやついるし」
「考えとく」
「マネージャーも誘ってみろよ」
チラシを突っ返され先へと歩いていく拓真の背中に向かって言ってみるが反応はなく真面目だなぁと西川は苦笑いを浮かべる
夕飯は皆食堂に集合して一斉に「いただきます!」と言ってから食べ始める。今夜のカレーはマネージャー安曇のお手製で部員達にはとても好評である。
「マネージャー、カレー美味いよ」
「ホント?良かった」
周囲の部員達が美味しいと褒めてくれて安曇は嬉しそうに笑う。自身もいつも通り作れて良かったとほっとしつつ、拓真はどうなのかチラリと見るが眉間にシワを寄せながらカレーを食べている。拓真の口には合わないのかなと内心ちょっと落ち込む。
「マネージャー」
「ん?何?土屋くん」
隣に座って食べている同学年の土屋に話しかけられて顔を向けると耳元でコソッと今日お祭りがある事を知らされる
「お祭り?皆行くの?」
「こっそりちょっとだけ」
「そうなんだ」
「マネージャーも行かない?」
「んー僕はやめとくよ。有難う誘ってくれて」
土屋に笑みを向けるとカレーを一口食べて花火ぐらい見れるかなぁとぼんやり考える。
土屋は少し残念そうに「そっか…」と呟き食べ終わった食器を片付けに行ってしまう
夕食後は自由時間でお風呂に入ったり、談話室でテレビをみたりと皆それぞれ消灯時間までまったりと過ごしている。
安曇がシャワー室から出ると一部の生徒が外に出るのを見かけたが、恐らくお祭りに行くんだろうと見送る。
「バレないといいけど…」
引率の先生やコーチにバレると怒られるだけではすまない。恐らく試合には暫く出して貰えないだろう。それでも行きたい気持ちは安曇にもわかる。だから、チクッたりはしない。
部屋に戻ろうと廊下を歩いていると部屋の前には拓真の姿。廊下の窓に寄りかかり眉間にシワを寄せて何かを考えている様子。
「拓真、どうしたの?」
近付き声を掛けると寄りかかっていた体をこちらに向ける
「安曇を待ってた」
「どうしたの?」
いつから待ってたんだろうと疑問に思うが、会いに来てくれるのは何だか嬉しい。
「祭り行かないのか?」
「うん…行きたいけど…先生に見つかって逃げるってなったら足でまといになるから」
バスケ部の皆ほど運動は得意ではない安曇。誘いは嬉しいしお祭りにも行きたかったが、合宿が終わった後地元でも祭りがあるしと考えていた。
「拓真は?行かないの?」
「俺は別に…」
どうせなら安曇と行きたいと思っている拓真は言葉を濁す。二人が会話をしていると窓の外からドンドンと花火の音が聞こえてくる。安曇が音に気が付き窓に近付き覗き込んでみるが音しか聞こえず少しガッカリする。
「花火みえないや」
「なら、見に行こう」
「え?」
手を掴まれてそのまま外へと連れ出される
「ちょっと拓真…見つかったらマズイよ」
「そこの河原に行くだけだ」
「でも見つかったら…」
「俺なら安曇担いで走れるよ。大丈夫、安曇は俺が守るから」
恥ずかしいセリフを堂々と言われてしまい安曇は断れなくなり「うん…」と小さく頷き手を引かれるまま歩く。
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