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第10話 僕と打ち上げ花火

拓真に手を引かれるまま河原にやってくると大きな花火が綺麗に見える。土手や川沿いにはシートを引いて見てる人がたくさんおり、皆空を見上げて花火を楽しんでいる。 「わぁー綺麗!」 「低いのは見えにくいけど高いのはよく見えるな」 「うん」 安曇は花火に夢中で忘れているが、まだ手を握っている状態。拓真は安曇の少し小さい手を軽く握って密かに感触を確かめる。自分の骨ばった手より柔らかく感じる。 (何やってんだ俺は…手の感触に浸って満足してる場合じゃないだろ!変態かよ!しっかりしろ…これはチャンスだ) 内心ツッコミを入れると握っていた手を離して、足元の土手に座る。拓真が座ったのをみて安曇も少し離れて隣に座り上を見上げる。 「どうせなら浴衣着たかったなぁ。持ってきてないけど」 フフフと楽しそうに笑う安曇をみて拓真は安曇の浴衣姿を想像して笑みを浮かべる。 安曇は花火に夢中で忘れていたが、この間の蓮と拓真の喧嘩を聞こうと拓真の方に顔を向けるとバチッと目が合う 「ん?なに?」 優しく微笑まれて思わず首を横に振る 「ううん…」 予期せぬところで目が合い驚いてしまい、顔を前に戻しドキドキと脈打つ心臓に落ち着けと言うが上手くいかず、顔はほんのり赤くなったまま手でパタパタと顔を仰ぐ (こっち見てた?…たまたまだよね…) 安曇が落ち着こうと深呼吸していると一際大きな花火がいくつも上がり顔をそちらに向ける。 拓真も安曇と同じように花火を見ていたが、内心はずっとソワソワしっぱなしだった。友達をやめる宣言してからどうアプローチしようか迷っていた。部活の帰りにどこか出掛けるとか部活ない日にデートするとか考えたが、友人の状態で散々出掛けており、気持ちに気が付いてくれる気がしなかったためやめた。 かくなる上は直接率直に言うしかないと決心し合宿中に言おうと思っていたが、なかなか機会がなく今はまたとない絶好のチャンスが巡ってきている 「安曇」 「ん?何?」 「好きな人とどうなった?」 「え?えっと…」 急に好きな人の事を聞かれ拓真の方へ顔を向けて考える。この間の事を思い出すが今だによくわからないため首を傾げる 「停滞中…かな。…拓真は?好きな人と進展あった?」 本人を目の前にして細かいことを言えるわけもなく言葉を少し濁して答えて安曇はすぐに話を切り替える。 「まだ何も」 「そっか…」 進展がないとわかると少しほっとしてしまうが、同時にまだ正体がわからない好きな人に嫉妬してしまう 「俺の好きな人誰だかわかった?」 考えなかったわけではなかったし、目星も付けたが安曇の中でしっくり当てはまる人物が確定してなかったため首を横に振る。 「ううん、拓真が好きになるくらいだからすっごい可愛いんだろうなって思ってるけど」 「うん、すっごい可愛いな」 「やっぱり可愛いんだ…うーん、誰だろう?」 拓真の事が好きな女の子は可愛くて結構積極的な子が多い印象がある。何人か顔が浮かぶがどの子も拓真の対応は同じなような気がして首を傾げる。 「教えようか?安曇には特別」 教えようかと言われ、聞きたいような聞きたくないような複雑な気持ちになってしまう。それを聞いた後自分は応援してあげられるのか、彼女が出来た時喜んであげられるのかわからない。 「うん…聞きたいな」 しかし、ここで断るのは何だか友人として素っ気ない気がして断れず、興味ある返事を返す。 「じゃあ耳貸して」 「うん…」 花火の音がドンドンと周りに響き渡るため小さい声は聞こえにくい、拓真は安曇に近寄り耳元でコソッと打ち明ける。 「俺の好きな人は安曇だよ」 その時、花火の音が耳に入ってこなかった。煩く鳴るのは安曇の心音。安曇には時が止まったように感じた。 (え?今…名前) 安曇という女の子が他にもいたのか?と考えるが聞いたことがなく、もしかしなくても自分の事なのか?それともボケだった?とぐるぐると思考を巡らす。 「安曇?」 急に黙ってしまった安曇に不安が広がり拓真は顔を覗き込んで見る。 「僕のこと…なの?」 やっと口を開いた安曇は震えるような声で小さく呟く。 「友達やめるって言っただろ?」 拓真自身こんなこと男から言われたら気持ち悪いだろうなと思う。ましてや、幼馴染みからなんてどう返していいか拓真ならわからない。今にも逃げ出したいし、茶化して元に戻りたかったがそこをなんとか堪える。決意は変わらない。どんな言葉でも受け止める覚悟は出来ていた。 「そう…だったね」 拓真が言っていた友達やめる宣言の意味はこうゆうことだったのかと理解した安曇は両手で顔を覆う。嬉しいしとても恥ずかしくて拓真の顔は見れない。返事をしなくてはと思っていたがなかなか言葉が出ない。 顔を手で覆ってしまった安曇をみて拓真は苦笑いを浮かべる。 (男から言われれば困るよな…困らせてごめん安曇) 内心謝っていると見覚えのある人影をたくさんいる人の中から捉える。それは見回りに来ていたコーチと顧問で拓真は安曇の手を取り立ち上がる。 「安曇、そろそろ戻ろう。立って」 「え?うん…」 拓真の視線は安曇見ずにその後ろを歩く人影を見つめている。安曇も振り返って何を見ているのか探すが分からず首を傾げる。 「少し早足で行くぞ」 拓真は早足で人混みに紛れるようにして合宿所へと戻っていく。その間、安曇は顔を赤くしたまま握られた手をじっと見つめてどう言おうか考えていた。 無事見つからずに合宿所まで戻ってくると花火の音だけが響いて聞こえてくる。 「ちょっとしか見れなかったな…花火」 「え?あ、うん…」 正直花火どころではなくなってしまったが、花火よりもいいものをもらい嬉しいし恥ずかしくて拓真の顔をまともにみられない。 俯いたままの安曇に拓真は気まずくなり何を声掛けていいのかわからず先に玄関に入り靴を履き替える 「あー…先に戻るな」 「え?」 「おやすみ…」 逃げるようにそそくさと部屋に戻ってしまった拓真の背中を見送り、安曇はフラフラと靴を履き替え近くのベンチに座り込む 「夢じゃ…ないよね?」 先程の言葉を思い出してみるみる顔を赤くしていく。耐えきれずソファの上でゴロゴロと悶えてしまう。 「僕も言わなきゃ」 ひとしきり悶えて落ち着いたところで体を起こし立ち上がる。安曇の中で答えなんかとっくの昔に決まっていた。明日言おうと決心して部屋へと向かう安曇だった。

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