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第11話 俺と西川と高橋

部屋に戻った拓真は一人窓際に座って携帯をポチポチといじっていた。傍から見るととても冷静に見えるが、内心では今だに心臓が速く脈打っている。 (あー…落ち着かねぇ…怖くて返事聞けなかった。余裕なさすぎ) そのまま窓に寄りかかり深くため息をつく。安曇はどう思っただろうか?何度も何度も先程の光景を思い出していた。花火を一緒に見られるのは最後かもしれないと考えていた。 (落ち着け…もう言ったんだ。どっちになってもいいって決めたんだろ) また深くため息をつくと廊下が騒がしくなり、部屋のドアが開けられ部員数人が戻ってくる。いの一番に西川が近寄ってきて側に座る。 「よ、拓真。1人で何やってんだ?」 「ゲームだよ」 持っていた携帯をポケットにしまうと西川が持っていたビニール袋に目を落とす。 「祭り行ってきたのか?」 「おう、行った行った。はい、土産」 ビニール袋から小さめのりんご飴を手渡される 「有難う」 「拓真は?ずっとここにいたのか?」 「いや、安曇と河原まで行って花火みた。コーチ見かけたからすぐ帰ってきたけど」 「へぇーマネージャーと…」 西川はニヤニヤと笑い拓真の顔を覗き込んでくる。拓真は西川の様子に顔を顰める 「何だよ」 「マネージャー喜んでた?」 「まぁな」 喜んでいたが自分の一言でもしかしたら台無しになってしまったかもしれないが、告白したことはとりあえず黙っておく。 他の部員たちは押し入れから布団を出して部屋に敷き詰めて敷いていく。6人部屋なため少し狭いが寝るには充分。枕を投げあってふざけつつも布団を敷き終えると寝転がってお菓子を取り出して食べ始める。 その様子をぼんやり眺めている拓真をみて西川が首を傾げる。 「拓真、マネージャーとなんかあった?」 「は?何もねーよ」 あったといえばあったが、まだ何もないのも確かで西川の鋭い指摘に少しドキッとしてしまう。 「…ふーん」 「……」 「拓真ってマネージャーのこと何でも知ってんの?」 「何でもは知らねーけど。誕生日とか血液型とか好きなものとかなら知ってるけど」 「好きな人は?」 「知らねーよ」 西川の突然の質問に少し驚くが、顔には出さずあくまで冷静に答える。 「知らないのか…」 「え?西川知ってんの?」 「知ってる」 ニヤリと余裕のある笑みを浮かべて勝ち誇るように言う西川に驚く拓真。なぜ西川が知っていて自分は知らないのか悔しくなる。 「ちなみにバスケ部員なら知ってると思う」 「はぁ!?何だそれ!」 思わず大きな声を出してしまい、布団に寝転がっていた他の部員達が拓真の方に顔を向ける。 「あははっ!だってマネージャーわかりやすいし」 「何?拓真どうしたの?」 お菓子を食べつつ二人の方へ近付いてきた部員の高橋は、拓真の驚いている顔をみて首を傾げる。 「高橋も知ってるよな?マネージャーの好きな人」 「え?うん、知ってる」 「はぁ!?」 西川の問いかけにあっさり答えた高橋に驚きまた大きな声を出してしまう。二人から距離をとり、二人を交互にみて不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。 何故部活でしか話さないような二人に分かって、幼なじみでよく会話する自分がわからないのか拓真には謎でしかなかった。 「何?お前らいつ知ったの?」 「部活はいってわりとすぐくらい」 「そうそう」 拓真の驚いた反応が面白くて西川はずっと笑っている。それがまた拓真の嫉妬心を煽る。 「誰だ…」 思わず心の声が口からポロリと出てしまう。自分では結構安曇のことを知っているつもりだったが、実際のところそうではなかったようで悔しくなる。 真面目にわからない様子の拓真に、西川と高橋は顔を見合わせて苦笑いを浮かべ拓真の肩を軽く叩く 「大丈夫だ拓真」 「そのうちわかる」 二人は拓真を慰めるように言うと自分の布団の場所へと戻って行ってしまう。 拓真は一人になるとまた窓に寄りかかり深くため息をついた。

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