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第12話 俺と真夜中の電話
就寝時間も過ぎ皆が寝静まった頃、男6人で寝ている一室で拓真は眠れず身体を起こす
(全然眠れねー…)
布団から抜け出し部屋を静かに出て共同トイレへと向かう。歩きながら携帯の画面を見ると時間は夜中の2時過ぎ、合宿場の中は静まり返っていて拓真の足音だけが異様に響いて聞こえた。
(試合前でもこんなにならねーのに…告白しただけで緊張して寝れないとか…ビビりすぎ)
花火から戻ってきてからずっと、告白した後の様子を何度も思い出していた。
「僕のこと…なの?」
絞り出すように少し震えた声で言っていた。驚きなのかなと拓真は思ったが、嫌悪していたから震えたとも読み取れる。
「…はぁ」
もう何度目かわからないため息が出た。考えてもしかたないことを、ぐるぐると考える自分に疲れたため息だった。
トイレを済ませた拓真は、部屋には戻らず中庭へと出て深呼吸を一つする。肺の中に新しい空気を入れて、モヤモヤした気持ちと一緒に吐く。
空を見上げると星がよく見えた。
言葉にして伝えた途端今まで積み重ねた色んなものがほぐれたような気持ちになった。
「もう、隠さなくていいのはいいな…」
安曇に対してだけは素直な気持ちを伝えられるが、周りにバレるの恥ずかしい。
モヤモヤした気持ちをどうにかしたくて携帯を取り出すと自分のことをよく知っている蓮に電話をかける。
夜中なので出るとは思っていなかったが、2コールでその人物は出た
『もしもし?』
「起きてたのか?」
『大学のレポートやってた。何?どうかした?』
「いや、何となく…」
先日、あんな言い合いをしたのも今ではもうなかったかのようにいつものように会話を始める。
『ふーん、安曇と何かあったか?』
いきなり確信をつく質問に拓真は驚き少し黙ってしまう。
「…ねぇよ」
『今、合宿中だろ?同じ部屋になったとかか?』
「なってねぇよ」
『なんだ…つまんねーの』
何がつまらないのか拓真には分からないが、そんなやり取りも今は気が紛れた。
『それで?本当のところは?』
どうしても答えないと先には進めそうにないので、仕方なく花火を見に行って告白をした事を蓮に伝える
『おー!それで?』
「先生に見つかりそうになったから急いで戻ってきた」
『安曇の返事は?』
「まだ聞いてない。すぐ部屋に戻ったし」
『のんびりしてんな…お前ら。いや、お前ららしいか』
電話の向こうで笑う蓮に拓真は眉を顰めて少し不満気な顔をする。
『もう、気持ち伝えて隠す必要ないんだからガツガツ行けよ』
「ガツガツ?」
『お前に足りない大胆さっていうの?強引さ?』
「安曇の返事聞いてないんだけど」
『大丈夫だ。全然問題ない』
いや、あるだろ。と内心ツッコミを入れる拓真だが、蓮は安曇から恋愛相談を受けていたようだから安曇の恋愛事情には詳しいのかもしれない。
「具体的にどんな事?」
『俺なら抱く』
「は?」
『冗談。手握るとか抱き締めるかな』
案外、普通の答えが出てきて拍子抜けだがボディタッチは出来るだけ避けてきたので意識させるにはいいのかもしれない。
果たして男から触られて意識するのだろうか?疑問ではあるが、触れるのは嫌がっている感じではなかった。
(抱き合っても平気そうだったけど…)
「出来そうならやってみる」
『出来そうじゃなくてやれ』
「……おう」
何故か強い口調で言ってくる相手に首を傾げ、小さく返事をすると蓮は満足したのか何やらゴソゴソと音が聞こえてくる
『じゃあ俺、寝るわ。くっついたら目の前でイチャついてるとこ見せろ』
「はぁ?」
『おやすみ』
一方的に切られ、ツーツーと一定の機械音が聞こえてくる。拓真は不満そうに携帯を耳から離し、画面を見つめため息を吐くと携帯をポケットにしまって部屋へと歩みを進める。
蓮のおかげでモヤモヤした気持ちは少し軽くなったものの、変なプレッシャーを与えられて不安になる拓真だった。
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