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番外編 年越し小ネタ
大掃除を終え、玄関ドアにはしめ飾り、リビングには鏡もちも飾った。
これから熊谷と一緒におせちを作り、怜央が寝付いたら、二人でまったりテレビでも見ながら新年を迎える予定だ。
……いや、麒麟の胎内には現在では二人目の子供が宿っているので、正確には三人か。腹の子には、今夜は少しだけ夜更かしに付き合ってもらおう。
「あ! このかまぼこ、『え』かいてる!」
麒麟が均等の厚さに切ったかまぼこを見た怜央が、目を輝かせて指をさす。
「これは絵じゃなくて文字。『寿』って書いてあんの」
「ことぶき……?」
「んー……おめでたいときに、使う言葉。お正月には、『あけましておめでとう』って言うだろ」
「じゃあこのコがうまれたら、そのときも『ことぶき』?」
まるで熊谷のガラス細工を触るときみたいに、怜央が小さな手で麒麟の腹をそうっと撫でた。来年はもっと小さな手が増える幸せに、思わず目を細める。
「うん、そのときも『寿』」
「そっかあ。はやくれおみたいに、おとしだま、もらえたらいーね!」
麒麟の腹に向かって話しかける怜央の口に、特別に栗の甘露煮を一つ放り込んでやる。「おいしー!」と頬を押さえながら、怜央がふとリビングを見渡して首を傾げた。
「おとーさんは?」
「ああ、今工房に居る」
「おしごと?」
夜なのに?、と見上げてくる怜央の視線が問うている。
「なんか、どうしても作りたいモンがあるんだってさ」
思い立ったように突然熊谷が工房に篭ってから、そろそろ小一時間。
一体何を作っているんだろうと麒麟も工房へ続くドアへ目をやると、図ったようにその向こうから熊谷が戻ってきた。
「おとーさん!」
「おっと。なんだ怜央、口に栗入ってんじゃねえか。おせち食うのはまだ早いだろ」
駆け寄ってきた怜央を器用に片手で抱きとめた熊谷が、愛息子の髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。もう片方の手には、小さな茶色のガラス細工が四つ載っている。
相変わらず、熊谷の見た目からは想像できない、丸くて可愛らしいフォルムのイノシシだ。しかも大きさが全部違う。
「もしかして、それ作ってたの?」
「まあ、縁起モンだからな」
言いながら、熊谷が鏡もちの隣に四匹のガラスのイノシシを並べた。大きい順に並んだそれは、まるでイノシシのマトリョーシカ。
正月は、クマもキリンもライオンも、みんな来年加わる仲間に合わせてイノシシに様変わりだ。
「勝吾さん、里芋剥くの手伝って欲しい」
「手伝うっつーか、それは俺がやる。お前、去年それで手切って年末に月村の世話になっただろ」
「芳さんに教わって、ちょっとは上手くなったよ!」
「じゃあ煮込む方担当してくれ。怜央、そろそろ寝ねぇとお年玉、貰えねぇぞ」
お年玉、と聞いて、怜央が急いで洗面所へ歯を磨きに駆けていく。
「……過保護」
「お前が危なっかしいからだ。いいから素直に甘やかされてろ」
ボソリと呟いた麒麟の額に、熊谷からキスが降ってくる。
こんな幸せが、絶えない年でありますように───。
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