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番外編 お題:『月が綺麗ですね』を言わせてみた
商店街の居酒屋で行われた新年会からの帰り道。
街灯もない田んぼ沿いの道を、月明かりがぼんやりと照らしている。
アルコールで火照った顔を撫でていく夜風が心地いい。思わず目を細める麒麟の隣を、眠ってしまった怜央をおぶった熊谷が並んで歩いている。熊谷もまた、仄かに頬が紅みを帯びていて上機嫌だ。
酒が入ると、熊谷はいつもより饒舌になり、テンションも上がる。
麒麟も似たタイプだが、熊谷ほど飲めないので、一緒に飲んでいたも大抵先に寝落ちてしまうことが多い。今も実は、眠気で若干足元が危うい。
小屋へと続く坂道を上がりながら、熊谷がふと空を見上げた。
「今日はいい月出てんなあ」
つられるように、麒麟も顔を上げる。都会と違って明かりの少ないこの町は、月だけでなく星もよく見える。
なんとか座流星群、なんてものがなくても流れ星が日常的に見られるということを、この町に来て初めて知った。
「ここって、月も東京よりずっと明るく見えるよね」
町全体を照らす明かりのような月を見詰めていると、不意に隣から熊谷の手が伸びてきた。
背中の怜央を片腕で支えながら、空いた手が麒麟の指を絡めとるようにして握り込む。
「勝吾さん?」
「……月が、綺麗だな」
唐突にそう呟いた熊谷は、何故か少し照れたように顔を背けている。
「……? 確かに綺麗だけど、いきなり何?」
ポカンとして首を傾げる麒麟に、熊谷が今度はガクッと項垂れた。照れたと思ったら、次は何だか凹んでいるみたいで忙しい。
「そうか……これがジェネレーションギャップってやつか……」
「え、何が? 今のってなんかの振りだった?」
「何でもねぇから忘れてくれ」
「そう言われたら益々気になるじゃん!」
熊谷がそれっきり黙り込んでしまったので、麒麟はポケットから取り出したスマホで熊谷の呟きを検索してみる。
表示された検索結果を読み進める内に、カーッと酒の所為ではない熱が顔へと集まっていくのがわかった。
もう何度も熊谷には「好きだ」と直接言ってもらっているはずなのに、こんな遠回しな告白がとても特別なものに思えるのはどうしてだろう。
「……勝吾さん。これ、俺は何て返すのが正解?」
「お前、なに調べてんだ。忘れろって言っただろうが」
決まりが悪そうに眉を寄せる熊谷の大きな手を、ギュッと握り返す。
どんな想いでその言葉をくれたのか、想像するだけでも愛おしさで胸が苦しくなった。愛くるしいって、きっとこういうことだ。
「気付けなくてゴメン。……ずっと一緒に見てて、って返事で、合ってる?」
「……こんなとこで煽るんじゃねえ。責任取って、帰ってもちゃんと起きてろよ」
しっかりと手を繋ぎ合って家路を急ぐ二人の背を、月の光が優しく照らし続けていた。
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