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番外編 キスの日
いつもより一時間ほど遅く目覚めた、日曜の朝。
もうすっかり日が昇っているのが、カーテン越しにもわかる。
ベッドの上で起き上がろうとして、麒麟はがっちりと身体に回された逞しい腕に気が付いた。
麒麟を腕の中に抱き込むようにして、熊谷はまだ隣で寝息を立てている。
普段より一際乱れた髪に、伸びかけた無精髭。
麒麟の存在を確かめているような、熊谷の腕。その重みと温もりに、麒麟は思わず目を細める。
「……俺はずっと、勝吾さんの傍に居るよ」
寝顔までも愛おしいという気持ちを教えてくれたのは、熊谷だ。
俺はどこへも行かないよ、と告げる代わりに、目の前の不防備な唇へそっと口付ける。
折角の休日だから、もう少しのんびりしようと布団に潜りかけた麒麟の身体を抱く腕に、不意に力が篭もった。瞬きしている間にグイッと強く抱き寄せられ、我に返ったときには、寝起きの熊谷に覆い被さられていた。
「勝吾さん、起きてたの?」
「どっかの誰かさんは、放っとくとすぐ悪戯しやがるからな」
「なにそれ、悪いヤツ」
素知らぬ顔で肩を竦めた麒麟を窘めるように、熊谷がコツンと額を押し当ててくる。
じゃれ合うように頬を擦り合わせるたび、ザリザリと肌に触れる熊谷の髭が擽ったい。
「どこにも行かないから、大丈夫だよ」
互いの髪を掻き混ぜながら、麒麟はもう一度熊谷の唇へキスを送る。
誓いと、深愛の証。
「なら、今日はもうちょっとだけ寝過ごしてくれ」
甘えることで応えてくれる最愛のパートナーと、麒麟は朝の日差しの中で、何度も愛を送り合った。
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