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6-4 トオル

「ごめんな、背中痛いやろ」 「気になるんやったら、床に()わせて後ろからしたらええやん。それとも立ったままやるか。なんでもやるよ俺は。どうやってやりたいか、なんでも言うて」  仰向(あおむ)けに寝ころんだまま微笑(ほほえ)んで(たず)ねると、アキちゃんは俺を抱き、じっと顔を見下ろしてきた。その顔は、ずいぶん苦しそうやった。 「あの、電話の相手とは、どんなふうにしたんや」  アキちゃんは、案外冷静な声で、俺にそう()いた。俺は笑ってられんようになった。 「藤堂さんのことか」 「名前なんか知らんでええわ」  追い被せて答えてくるアキちゃんの声は、何やら怖かった。  からん、ころん、と、微かな子供の声のようなもんが、下の階から聞こえた。空耳やないはずやけど、アキちゃんはそれに、全く気を向けてへん。 「どんなんしたんや。俺とやるより、良かったか」  アキちゃんが、嫉妬してるんやというのは、もちろん分かってた。でもそれが、嬉しいというより、今は怖かった。いつもは平凡な好青年ですみたいな風でいるアキちゃんが、この蔵の闇と、黄昏の光の中では、なにやら別物に見えた。それで俺は震えてきて、アキちゃんの体の下で、凍えたように縮こまっていた。 「藤堂さんは、俺を抱かへん。()めるだけや。あの人は、病気やねん。()たへんのやって。ほんまかどうか、知らんけど……一遍(いっぺん)も、抱いてもらったことない」 「そんなやつの、どこがええねん」  アキちゃんはまじまじと、俺の顔を見ていた。からん、ころん、と、また下で声がした。 「……上手いねん。ただそれだけ」  嘘でもつけばよかったろうけど、なんでかそれができへんかった。アキちゃんにじっと目を見下ろされ、お前はどうしようもないやつやと言われてる気がして、俺は泣きそうになった。アキちゃんは、怒ってる。俺の話に。腹立つなら、なんでそんな話させるんや。  半日離れてる間、年始客の相手しながら、アキちゃんは俺のこと恋しく思っててくれたんやと喜んでたのに、ほんまは怒ってたんか。なんでそんなふうになるんやろ。俺はずっと、アキちゃん早う帰ってけえへんかなって、寂しく待ってたのに。 「俺は下手やってことか」  どう聞いても頭にきてるらしい声で、アキちゃんはぽつりと()いてきた。 「そんなことない。アキちゃんとやるのは気持ちええよ」  強い握力で、アキちゃんは俺の手首を握りしめていた。指が食い込むような力やった。 「どうやったらお前が(よろこ)ぶのか、教えてくれ。俺には分からへん。なんでもしてやるから、他のと寝んといてくれ」 「そんなことしてない。アキちゃんと会う前の話や。そんな怖い顔せんといて」  (おび)えて頼むと、アキちゃんは目を閉じて俺から顔を背けた。深い息をつく間、アキちゃんは黙っていた。アキちゃんの怖い目から逃れて、俺はほっとした。 「亨。俺はお前が好きや。でも、どうしたらいいか分からへん。どうしたらいいか……」  アキちゃんがなんでそんなに(あせ)ってるのか、俺には分からへんかった。  言葉に詰まったまま、アキちゃんは結局なにも言わず、いきなり服を脱がせてきて、俺のを()めた。急なことすぎて、(あえ)ぎより悲鳴が漏れた。びっくりしたんや。アキちゃんは今まで、そんなことはせえへんかった。俺がアキちゃんのを()めることはあっても、その逆はなかった。  怖い目で見られて、びびってたせいで、俺はまだ興奮してなかった。アキちゃんの、上手いとは言えない舌で(なぶ)られて、だんだん(たか)ぶってくる自分が、なんでかすごく恥ずかしい気がして、俺は逃げたかった。  いつもみたいに、ご奉仕させてよ。こんなんアキちゃんらしくないやん。俺だけ気持ちよくされて、アキちゃんはそんな悲しそうな顔でいるのは、ぜんぜん幸せやない。そう思えて、俺もアキちゃんに何かしようとしたけど、全部拒まれた。 「アキちゃん、俺、こんなん嫌や。一緒に気持ちよくなりたい。俺のこと抱いて、いつもみたいに」  (もだ)えながら頼むと、アキちゃんは荒い息で唇を離し、俺の腰を抱え上げて床に這わせた。  嫌な予感がした。アキちゃんは、どうやってやるか、ろくに知らんのとちゃうか。今までずっと、支度は俺がしてたもん。アキちゃんに、前戯をやらせると、俺が女やないことを思い出して、すぐ()えるんで、俺はもう早々に、そんなことは諦めた。  案の定、アキちゃんは、俺が用意してたもんは使ったものの、それさえ付けりゃええんやと思ってたみいやった。無理矢理後ろから入れられて、俺もさすがに(うめ)いたわ。まだ早い。めっちゃ痛いわアキちゃん。 「い、痛いで……アキちゃん。入れる前に、慣らさなあかんねん」 「そうなんか。でも、もう、我慢できへん」  泣いてるみたいな声やった。アキちゃんは、俺の中に入れるだけで、相当気持ちええらしい。なんでやろ。欠けたところに、ぴったり(はま)るような感じが、いつもする。いつもやったら、俺もそうやわ。 「動いてもええか」  極まった声のアキちゃんは、(たず)ねてるんやなく、俺に頼んでるんやった。四つん這いになった俺の背を抱く、アキちゃんの体が、震えてるような気がした。

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