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04:デリヘル呼んだらお前かよ
アイはあどけない表情を一変させ、不敵な笑みを浮かべた。
「あーあ、残念。このまま玲が枯れるまで搾り取ってやろうと思ったのに……性的な意味で」
「お前、その体……」
「義体だよ、アンドロイド。何で分かったんだ?」
「その体からは何の匂いもしない。それに俺に“尻を見せろ”なんて言うのはお前だけだ」
「しまった。新品なのが災いしたな。かと言って誰かが使った中古を玲に使わせるのも嫌だし……」
「知っていると思うが、ここまで人間に寄せて作られたアンドロイドは規定に反する。ましてや疑似チョーカーまで付いているとなると完全に犯罪だぞ!」
アンドロイドが普及した昨今、それらを利用した犯罪・恋愛感情を抱く性嗜好異常を防ぐために、アンドロイド製造には“人に似せすぎないよう”厳しい製造管理規定が設けられている。
その結果、公的な場で活動するアンドロイドは、多関節型・円柱型・ボール型など機械的なデザインが多い。
人型の物は二頭身から五頭身で、顔もデフォルメされた造形であったりと、親しみやすさはあるが見るからに“人工物”だと分かるようになっている。
ただ例外もあり、風俗店で性的なサービスをするアンドロイドはそれなりに人間に近い風体をしている。
そうは言っても“人と見間違えるほど類似したアンドロイド”は規定に抵触するので、猫や兎の耳を付ける・蝶や鳥の羽根を生やす・肌や目を奇抜な色する・手足を人外の物にする・質感を変える……等、人との相違点を付加し、なんとか規定内に収めているのだ。
このようなグレーゾーンに位置する物は巷で「裏アンドロイド」と言われている。
労働者の減少と、4兆円に迫る風俗業界の市場規模から、裏アンドロイドは政府からも黙認されている。
しかし、玲の目の前にいるアンドロイドはどうだ。
人間との相違点を見つける方が難しい。
そして一番重大な問題は国民共通身分証明通信機、通称“チョーカー”を付けていることだ。
国民はもれなく全員、頸部へチョーカーの装着を義務付けられている。
これには個人識別IDが搭載されており、身分証明、行動記録、バイタルチェック、ネットワーク接続等、保安と生活のサポートをする役割を担っている。
流体多結晶合金で造られたそれは細く薄く、装着感は無いに等しい。
自在に変形伸縮するため、手術等よほどの事が無い限り生まれた瞬間から死ぬまで外されることはない。
無許可で外せば公的機関から厳重注意、不純な動機であれば罰金も科せられるので無意味に外す者はいない。
このチョーカーの有無は、人間と裏アンドロイドを一目で見分ける指標になっている。
チョーカーの偽造は重罪であり、人間と見紛うばかりの超高品質アンドロイドに疑似チョーカーまで付いているとなると立派な「違法アンドロイド」だ。
製造することも罪だが、使用したことがバレればタダでは済まないだろう。
「ふふふ、細かいことはいいじゃない、楽しもうよ。ほら、こういう女、玲のタイプでしょ? 嗜好分析して作った完全オリジナルだよ」
アイ、もとい女性型のアンドロイドを纏ったアルフレッドが距離を詰めてくる。
「やめろ、俺はロボット風俗なんて行ったことが無いし機械の女は抱かない主義なんだ! そんなダッチワイフを使うくらいなら手で処理したほうがマシだ」
玲が吐き捨てるように言うと、アルフレッドは動きを止めて俯いた。
もしかして怒ったのだろうか? まさか、泣いている? 女性の姿で泣かれるなんて最悪だ。
「なあ、クソAI、何とか言えよ。そしてできれば帰ってくれ」
「……“機械の女は抱けない”ってことね」
「え? ああ、そうだよ、機械の女は抱けない」
「……つまり、チェンジ?」
「そ、そうだな、チェンジって事になるのかな? この場合」
「……わかった」
女性型アンドロイドは、そう言うとさっさと部屋から出て行った。
そしてほっと息をついたのも束の間、今度は大柄な男のアンドロイドが入ってきた。
「つまり“機械の男に抱かれる”方が好みってことだな!」
「そうじゃない!」
玲は目の前が真っ暗になるような気がした。
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