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第3話 一杯目(3)

 朝食替わりにと、いつも来ているから、どんなメニューがあるか、なんてのはもう覚えている。しかし、ついついカウンターにつくとメニューに目を落としてしまう。  ここの売りは、美味しいコーヒーもそうだけど、モーニングの時間帯のトーストのセットも外せない。サンドイッチや総菜パンもあるにはある。それも、かなりボリュームもあって、その上、美味しい。だけど、実はトーストよりも少しだけ高い。それだけ具沢山だから、仕方がない、といえば仕方がない。  そしてもう一つ。俺が気になってるのは、ホットミルク。いい大人の男がホットミルク?とか笑われそうだけど、ここのはホットミルクに、ハチミツとシナモンが入ってる。ハチミツの微妙な甘さと、シナモンの風味がなんともいえない。このホットミルクにはまったきっかけは、大学のそばにあった店だった。 「今日も、カフェオレと餡バタートーストでいいのかな?」  ハーフイケメンの優しい声が、頭の上から落ちてくる。そう。俺の定番はカフェオレと餡バタートースト。海外のチェーン店のはずなのに、餡子有りのトーストを持ってくるあたり、すごいセンスだと思う。本当はホットミルクと言いたいのに、この人に聞かれると、いつも、どうしても言い出せなくなる。 「えと、はい。お願いします」  ホットミルクに惹かれながらも、笑顔を浮かべてそう答えると、ハーフイケメンは満面の笑みで頷いた。その笑顔になぜだか胸がキュンとなる。今までだって、普通に接客されてたはずだけど、今日に限って、なぜだかいつも以上に意識してしまった。  自分の状況に頭を傾げながら、レジで会計をしている間、普段は気にもかけなかった彼の胸の名札に目を向ける。カタカナで『ホワイト』と書いてある。横顔を見ると、その名前の通り、白くて美しい肌に、長い睫毛、青い瞳に見惚れてしまう。 「はい、番号札三番でお呼びしますね」 「は、はい」  慌てながら差し出されたトレイを受け取る。カフェオレと「三」と書かれたプラスチックの番号札。俺は、いつもの壁際の席へと向かう。この時間は、あまりお客さんもいないから、テーブル席に座ってもいいのかもしれないが、俺はついつい壁際のカウンターの席に座ってしまう。  壁と向かい合いながら、俺はバッグの中から携帯を取り出し、電源を入れる。そこには、母さんと高校二年の弟の征史郎からのいつもの『いってきます』というメッセージが届いていた。俺の勤務時間のせいで、二人と顔を合わせられるのは夕飯の時だけ。毎朝、このメッセージを見て、やっとホッと一息つける。

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