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第4話 一杯目(4)
カフェオレを口に含みながら、母さんのメッセージの続きを読む。いつも通り、夕飯の買出しのメモがつらつらと書かれていた。母さんも事務の仕事でフルタイムで働いているものの、仕事帰りに買い物をしていると遅くなる。だったら、昼前には帰ってくる俺が買い物をしてくるよ、という話になって今に至っている。今日は材料からすると親子丼か。俺の大好物の一つ。
「番号札、三番でお待ちのお客様~」
店内の静かなBGMが流れる中、自分の番号を大きな声で呼ばれると、ちょっとだけ驚いてしまって、ついついビクンと身体が跳ねてしまう。呼ばれるのはわかってるんだけど。
俺は番号札を手に、席を立った。受け渡しのカウンターのところ向かうと、短めの黒髪を一つに束ねた、可愛い感じの女の子が、トレーを持って待っていた。
「ありがとう……って、俺、ゆで卵は頼んでないけど?」
困惑気味に、彼女にそう言うと、彼女のほうも困ったような顔で笑った。
「店長からです。卵、お嫌いですか?」
「え。いや、好きですけど」
親子丼好きの俺が、卵を嫌いなわけがない。トレーを受け取りながら、カウンターの中のホワイトさんの姿を探すと、ちょうど新しくきたお客さんの対応をしているところだった。
「じゃぁ、ありがたく、いただきます」
「はい」
彼女が嬉しそうに微笑むので、俺の方が照れくさくなった。自分の席へと戻って、のんびりと遅めの朝食を食べる。仮眠はとってはいるものの、夜勤明けだから、カフェオレを両手で持ちながら、ボーッとしていると、テーブルを拭きに来た人がいた。
「寝不足?」
いきなり声をかけてきたのは、なんとホワイトさん。
「えっ」
それに驚いて、また思い切りビクッとなってしまう。そのせいで、カフェオレがテーブルの上に少しだけ零れてしまった。
「あ、すみません」
「いえいえ、こちらこそ、急にお声掛けしたから」
ホワイトさんが申し訳なさそうに、零れたところを拭いてくれる。身体が近くなったせいか、ホワイトさんから、ふんわりといい匂いが鼻を掠めた。爽やかでそんなに甘ったるい香りじゃない。思わず、ジッとホワイトさんの様子を伺ってしまう。パッと見た感じ、華奢なイメージだったのに、そばで見ると白いシャツの下は結構鍛えていそうだ。
「いつも、この時間だけど、大学生?」
テーブルを吹き終わったのか、ホワイトさんは優しく笑いかけながら、気安い感じで話しかけてきた。
「あ、いえ」
俺は両手で持っていたカフェオレをテーブルに戻すと、ホワイトさんへと視線を向ける。やっぱり、この人、綺麗だなぁ、と、つくづく思いながら。
「ここで警備のバイトやってるんです」
「えー?そうだったんだ?私も、ここは半年近くなるけど、気が付かなかったなぁ」
半年ということは、俺と同じだけ、ここにいるってことか。そういえば、ここのカフェに来てすぐに、ああ、すごいイケメンがいるな、とは思ったのを思い出した。
「俺、夜間の勤務なんで」
「ああ、だから、この時間なんだね。お疲れ様」
ニッコリと笑うホワイトさんに、俺の方が目が釘付けになる。やっぱり、ハーフでイケメンは迫力あるなぁ、と思っていると、カウンターのほうが忙しくなったのか、ホワイトさんがチラリと視線をはずした。おかげで、俺の方も身体の力が抜けてホッとする。
「じゃ、また来てね」
「は、はい」
爽やかな匂いだけ残して、ホワイトさんはカウンターのほうへと戻っていく。
「……ヤバイ、すげー、かっこいい」
ポツリと、そんな言葉が零れてしまった俺なのであった。
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