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第5話 二杯目(1)

 いつもは夜勤の俺が、急遽、昼の勤務を三日間だけ頼まれた。昼勤務の先輩の一人がインフルエンザにかかってしまったというのだ。夜勤のほうは、シフトに余裕があったのと、バイトの俺のほうが動きやすい、ということもあって、一日休みをもらった次の日の朝から行くことになった。  夜勤は館内の巡回が主だけど、昼間は従業員出入口の受付作業もあったり、館内でのお客さんの対応もあるらしい。バイトを始めて半年で、初めてのことに挑戦だ。早朝から自転車をこいできたのと、初めてのことで少し緊張もあるせいか、眠気も吹っ飛んでる。 「おはようございますっ」  いつもなら帰る時間に、俺は受付のところに立って、入館証を見せて入ってくる人たちに挨拶をする。こんなにたくさんの人が入っていくんだ、などと、帰り際には呑気に見てたけど、実際、その場に立ったら、そんな余裕などない。 「あのぉ、初めてなんですけどぉ」 「あ、はい。そこに名前と、行く場所、あと連絡先書いてください」  入館証を渡したり、質問に答えたりしている間に、時間はどんどん過ぎていく。入館のピークが過ぎ、ポツポツとしか人が入って来なくなった頃、巡回の時間がやってくる。 「上原くんは、初めてだったよね」  昼間の警備のリーダーの手塚さんが、クリップボードに挟んだ書類を手に、パイプ椅子に座るように促した。ここの警備の人の共通点なのかもしれないが、手塚さんもけっこう大柄な人で、ちょっといかつい感じがするけれど、実際話をしてみると、ずいぶんと物腰の柔らかいおじさんだった。  手塚さんからは、巡回の経路や、チェック項目、気になったところがあったら、必ずその店のスタッフに確認してサインをもらうこと、など、色々なことを教えてもらった。 「まず一回目の巡回では、木村くんと一緒に、この書類に書いてある項目のをチェックしてきてください。二回目以降は、書類なしでの巡回になります。その時は上原くん一人で回ってもらいます」 「は、はい」 「木村くん、いいかな」 「あ、はーい」  のほほんとした返事をした木村さんは、夜勤仲間の西山さんの大学の柔道部の後輩だったらしい。昼間の代打の話をしたら、木村さんのことを教えてくれたのだ。西山さんに比べると、木村さんは、本当に柔道部?と思うようなスラリとした爽やか系イケメン。警備員よりも、むしろショップの店員さんとかのほうが似合いそうだ。 「平日だし、そんなに混んでもいないだろうけど、気を付けていってくるように」 「はいっ」 「はーい」  俺たちは防災センターから出て、ショッピングモール内へと向かった。

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