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第6話 二杯目(2)
俺たちが巡回しなきゃならない、ここのショッピングモールは三階建て。東西に長く建てられていて、大小、いくつものショップが入ってるせいもあって、普通にワンフロアを回るだけでも、けっこう時間がかかる。
木村さんについて歩いていくと、予想通りというか、やっぱりというか、各ショップのお姉さんやら、白衣にマスクの食品のおばさんたちやらに、必ずと言っていいほど声をかけられた。それにも笑顔で上手く挨拶を交わしながら、ちゃんとチェック項目にも目を光らせてるのは凄い。手塚さんには、のんきに返事をしてたけれど、きちんとしてるんだな、なんて尊敬の眼差しを向けた。
「じゃあ、次、二階な」
「はいっ」
二階でもその状況は変わらない。いくつか見て回った後、バッグの店の女性スタッフの一人が、目ざとく木村さんに気付いて、店の入り口付近でさっそく挨拶をしてきた。
「あ、お疲れ様ですっ」
「はい、お疲れ様です~」
木村さんはそれにも笑顔で返事をしながら、店内に入っていく。女性用の可愛くてカラフルなバッグがたくさん置かれていて、俺たち、警備員の青い制服は場違いなこと、この上ない。店内も女性のお客さんがチラホラいらっしゃるので、さっさとチェックを終わらせてしまいたいのに、女性スタッフが接客そっちのけで、木村さんに張り付いている。木村さんも困ったような、でも、ちょっと嬉しそうな顔で対応してる。
俺の方は、さっさと回ってしまいたいんだけれど、一応、先輩だし、と様子を見ていると、ちょうど、この店の斜め前が、カフェ・ボニータなのに気が付いた。俺がいつも行く時間よりも、だいぶ混んでいるようなので、何気なく腕時計で時間を確認してみた。
「え、もう一時?」
防災センターを出たのは、まだ昼の時間にはなっていなかったはずだった。時間を意識した途端、なんだか腹が減ってきた。カフェのほうを見ると、今日は店長のホワイトさんの姿が見当たらない。今日はお休みなんだろうか。
木村さんは相変わらず、女性スタッフにつかまっている。なかなか、今度の人は手ごわいようだ。さすがに、ここだけに時間をとられるわけにもいかない。まだ、半分以上、見て回るところが残っているはずなのだ。
「木村さん」
「あ、悪い。行くか」
すみません、長話しちゃってぇ、と、にこやかに話す女性スタッフだったけれど、木村さんが背中を見せた途端、ギロリと睨まれてしまった。
「うわっ、怖っ」
ポツリと呟きながら、木村さんの後を追いかける。
「助かったよ。マジで」
隣に並んだところで、苦笑いしながら木村さんはそう言った。
「あの店さぁ、店長さんいる時はそうでもないんだけど、いないとああなんだよね。で時間かかりすぎって、手塚さんに叱られるのよ」
「はぁ……大変なんですね」
「アハハ。なんか、あの子はしつこくて」
参ったなぁ、とボソリと言って前を歩いていく木村さん。モテるって。正直、俺には縁のないことなので、ただただ、凄いなぁ、と思うばかりだ。
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