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第7話 二杯目(3)
二階の一番最後が、なんとカフェ・ボニータだった。ぐるりと回ってくるから必然的に、ここが一番最後になるらしい。つい、視線が斜め向かいのバッグの店へと向いてしまう。タイミングよく、あの怖い女の子は接客に入ってたようで、俺たちのほうには気が付いていないみたいだった。
「お疲れ様です~」
木村さんがカフェの中に入っていくと、カウンターの中にいた女性スタッフたちが、にっこり笑って会釈だけした。お店自体はそんなに混んでいないのに、木村さんのほうにはあまり興味がないみたい。木村さんは、サクサクと点検をして、問題が特になかったのか、サインも貰わずに、さっさと出て行こうとする。俺もその後をついていこうとした時。
「あ、あれ?もしかして」
スタッフの女の子の一人が声をかけてきた。俺は何かあったかと思って振り返ると、その子は、この前、ホワイトさんがおまけでくれたゆで卵を説明してくれた女の子だった。
「えー!ここの警備さんだったんですかっ」
「あ、はい……」
あれからも何度か朝飯を食べに来てはいたんだけれど、特に話をするでもなく、普通のお客として来ていた俺。その間も、特に仕事の話をしなかったし、ホワイトさんがいない時なんて、完全に一般客だった。ホワイトさんも、他のスタッフには言わないでいてくれたんだと思うと、ちょっとホッとしてたのだが。
「なんだー。早く教えてくださいよー」
「あ、あはは」
俺が苦笑いしていると「上原くん」と、木村さんに呼ばれてしまった。
「し、失礼しますっ」
慌てて会釈をして木村さんのほうに向かおうとした時。
「おっ!?」
「うわっ、す、すみませんっ」
今度はホワイトさんに体当たりしてしまった。しかし、ホワイトさん、意外に身体がしっかりしてるみたいで、俺くらいが体当たりしてもびくともしない。むしろ、俺の方が帽子を床に落としてしまった。
「おやおや、今日は警備員の格好なんですね」
ニコニコしながら帽子を拾うと、俺の方に差し出した。
「店長!知ってたんだったら、教えてくださいよぉ」
「んー?でも、ほら、個人情報?だし?」
「いやいや、そういう問題じゃなくてですね」
「うーえーはーらーくーん」
二人が揉めている間に挟まれてた俺だったが、木村さんの声が再び俺を呼んだ。それも、ちょっと不機嫌そうな声。
「す、すみませんっ」
俺は二人に頭を下げると、慌てて木村さんのほうへと駆け寄った。
「……何?知り合い?」
訝し気に俺の顔を見てから、カフェ・ボニータのほうへと視線を向ける。俺も同じように、カフェのほうを見ると、ホワイトさんがイケメンオーラ全開で、目がくらむような笑顔で俺のほうに手を振っていた。
「うわ、なんだ、あの笑顔」
「す、すごいですよね」
頭を下げた俺は、なんとか笑顔を貼り付かせると、木村さんとともに二階を後にした。
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