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第8話 二杯目(4)
二日目は、一人で巡回に行くことになった。昨日、二回目の巡回は一人で行ったのもあって、今日も問題なくやれるだろう、とは思った。
「じゃあ、上原くんは東側、木村は西側な。今日は昨日よりも早く戻ってくるように」
昨日は時間がかかりすぎて、手塚さんからこっぴどく叱られてしまった。それは俺のせいっていうよりも、木村さんがモテるのが原因なのに、と思ったが、口にはしなかった。それくらいの分別は俺にもある。
俺と木村さんは中央のスタッフの出入り口を出ると、左右に分かれた。昨日の二回目の巡回もそうだったけれど、俺一人だと驚くほどスムーズ。気持ちのいいくらい、誰も俺のことを気にかけない。そんな中、俺に気付いたのは、やっぱり、カフェ・ボニータの店長のホワイトさんだった。
「お疲れ様。今日は一人?」
クリップボードを手にチェックしてた俺に声をかけてきたホワイトさん。今日も、安定のイケメンぶりだ。
「お疲れ様です。昨日も二回目の巡回の時は一人でしたよ」
「あれ。二回目も来てたの?気づかなかったな」
チェックし終わると、俺はホワイトさんに小さく会釈をして店を出ようとした。
「今日は二回目もくるのかな?」
ホワイトさんが声をかけてきた。実際、二回目の巡回は東西が逆になる。昨日はたまたま、東側を任されただけだった。
「あー、二回目は西側になると思います」
「なんだ、残念」
振り返ってそう答えた俺に、本当に残念そうに言ってくれた。その様子に、なんだか嬉しくなった。俺はもう一度頭を下げると、クリップボードを握りしめ、再び巡回を始めた。
今回は、昨日二階を終えた時間には防災センターに戻ってくることが出来た。しかし、木村さんはやっぱりというか、まだ戻ってきていない。
「お、今日は早く戻って来れたな」
手塚さんがご機嫌でそう言った。それはそうだろう。昨日は俺たちが戻って来ないこともあって、手塚さんはなかなか昼休憩に行けなかったのだ。
受付窓口を見るとスーツ姿の女性スタッフもいたので、手塚さんはさっさと昼休憩に社員食堂に向かってしまった。
「ただいま戻りました~」
手塚さんが防災センターを出て二十分ほどして、木村さんが戻って来た。俺は受付の女性に拾得物の対応について説明を受けているところだった。
「お帰りなさい」
「お、お帰りなさい……」
隣に立ってた女性スタッフは、顔を赤らめている。木村さんはそんな彼女には見向きもせずに、クリップボードに挟んであるチェックシートを外していた。モテる男はやっぱり違う。
「手塚さんは昼休憩行ってます」
「あっそ……上原くん、それ、まだかかる?」
被っていた帽子を外してコートハンガーにかける木村さん。
「あ、いえ、もう終わりますっ」
俺ではなく、隣に立ってた女性スタッフのほうが返事をする。視線は完全に木村さんに釘付けなんだけど、肝心の木村さんは完璧にスルーだ。
「じゃ、終わったら飯、食いに行こうぜ」
「は、はい」
女性スタッフは俺の返事に、少しばかりムッとした顔をした。その顔に、俺が悪いの?と文句を言いたくなったが、俺はなんとか飲み込んだ。
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