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第13話 三杯目(1)
やっぱり、俺には夜勤が向いているらしい。
「おお、上原、久しぶりだなぁ」
「お疲れ様です!」
警備員用のロッカールームで制服に着替えてから、防災センターに向かうと、高田さんが目元の皺をくしゃくしゃにしながら、俺に声をかけていた。その声に、安西さんや西山さんも気が付いたみたいで、嬉しそうな顔で俺の方にやってきた。
「どうだったよ、昼の勤務は」
「可愛いお姉ちゃんとかと、知り合いになれたか?」
「そんなわけないじゃないですか」
西山さんにいたっては、髪の毛を思い切りぐしゃぐしゃと撫でてくる。「何すんですか」と笑いながら手を払いのける。短い髪だから、多少荒っぽくされても、大したことはないけれど、一応手櫛で整えてから、制帽を被る。
「なんか、昼の方が気を遣うっぽくて、疲れましたよ」
げっそりしたような顔をしてみせると、皆がガハハと大笑いした。
「でも、手塚はお前さんのこと、褒めてたぞ」
高田さんから言われると、悪い気はしない。俺の知っている警備員の中では、手塚さんは、なんとなく出来る人のイメージができていたから、なおさらだ。
「さて、久しぶりの夜の勤務だけど、やり方、忘れてないよな」
いつも巡回を一緒にしていた西山さんが、『ん?大丈夫か?』みたいな顔で上から覗き込んでくる。
「馬鹿にしないでくださいっ、大丈夫っす」
そう言い返している時、退館の波がやってきた。窓口に立つのは高田さん。各お店の従業員の人たちが、退館の時に提出する書類の入ったクリアファイルを差し出していく。今日はタイミングが悪いのか、やたらと窓口に人が固まっている。そのフォローに安西さんまで入ってる。
「ああ、今日は退店したとこに新しい店が入るせいで、業者が来てるのか」
西山さんがポツリと呟く。昼間は、お客さんがいるから、そういうメンテナンスは出来ない。だから、夜間に入るんだけれど、入館の処理と退館の対応で受け付けはごちゃごちゃしている。
「じゃあ、俺、外に出て受け取りますよ」
「おお。それ終わったら、巡回いくぞ」
「はいっ」
俺は受付のところへとまわり、退館していく人たちのクリアファイルを受け取っていく。
「お疲れ様でしたぁ」
「お先に失礼しまーす」
「……」
……従業員にもいろいろいるわけで、無言で差し出して、さっさと出ていく人も、稀にいる。まぁ、そんなのに一々こだわってると、疲れるだけなので、無視してるけど。少しずつ、人の流れも落ち着いてきた時。
「おや、上原くん」
そう声をかけてきたのは、私服姿のホワイトさんだった。
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