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第14話 三杯目(2)

 いつもカフェで見る白いシャツに長めの黒いカフェエプロンのイメージが強いけど、目の前にいるホワイトさんは、なんか、雑誌とかで見るモデルさんみたいだった。  黒っぽいショート丈のコートにワインレッドのハイネック、ベージュのパンツのスラッとした長い脚。なんか、腰の位置、おかしくないか?どんだけ長いんだよ。絶対、隣に並んだら、俺、ショックで死ねる。  その上、いつもと違うのは、眼鏡。眼鏡かけてるよ。細めのシルバーフレームの眼鏡で、すげー、頭良さそうに見える。  掘っ立て小屋、というと怒られそうだけれど、ほんと、館内とは真逆の、内装気にしてません、っていう建物の裏側にいるのは、すごい違和感。ホワイトさんだけ、なんか浮いている気がする。 「え、お、お疲れ様です」 「この時間に会うなんて、初めてだね」  優しく微笑みながら、書類の入ったクリアファイルを差し出す。受け取りながら、この人も、ここで働いてる人なんだよなって、今更ながら実感する。 「そ、そうですね。ホ、ホワイトさん、今日は遅かったんですね」 「ん?ちょっとね」  なんだか意味深な笑みを浮かべると、チラリと俺の背後に目を向けた。 「おーい、上原、そろそろ行くぞ~」  防災センターから出てきた西山さんがいつもと変わらず、俺の頭を制帽の上からポンポンと叩く。ホワイトさんの存在に気付いたのか、西山さんは、一瞬、おっ? という顔をしたけれど、特に気にした様子もなく小さく会釈だけして、さっさと館内への出入り口のほうへと向かっていく。 「あ、はい、ちょっと待ってくださいっ」  俺は慌てて、ホワイトさんに「すみません」と頭を下げると、受け取ってまとめたファイルを防災センターの中のテーブルに置く。 「高田さんっ、置いときますね」 「おー」  受付にいた高田さんは返事をすると同時に、俺のいる方をチロッとだけ向くと、テーブルの上へと目で確認だけした。俺はその返事を聞くと、急いで防災センターを出ようとした。  そこには、まだホワイトさんが立っていて、俺は少しだけびっくりする。なぜか西山さんが出て行った出入り口の方を、なんだか難しそうな顔で見つめてる。そんなホワイトさんに、一瞬、声をかけるのを躊躇したけれど、無視とかできない俺。 「お、お疲れ様ですっ」  制帽のつばに手をかけて、ちょっとだけ上げて挨拶をすると、ホワイトさんはすぐに俺のほうを見た。 「うん、頑張ってね」  さっきまでの顔つきが嘘みたいに、満面の笑みを浮かべたホワイトさん。それだけで、なんだか俺の気分が上がる。なんか、チョロいぞ。俺。  ニカッと笑って見せた俺は、急いで西山さんの後を追った。

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